直売所に行くと、無農薬・有機栽培・自然栽培そして「栽培期間中農薬・化学肥料不使用」などの表示を見かけることが多くなりました。
とくに主食の米選びは選択肢が多いので、直売所の米売り場で立ち止まることが多いです。
体に良いものを買いたいけれど、どれを選べばいいのか迷いますね。
表示のない慣行栽培の農産物と比べて何が違うのでしょうか?
こちらの記事では、無農薬・有機栽培・自然栽培の違いについて、メリット・デメリットもふくめてご説明します。
農薬と化学肥料は別もの
農薬と化学肥料は、並んで表示されることが多いですよね。
しかし、この二つは明確に違います。
農薬は、殺虫剤・殺菌剤・枯草剤などといった毒性のある薬剤です。
水で洗っても落ちないもの、毒性の強いものも含まれています。
一方、化学肥料は私たちの健康に害を及ぼすものではありません。
化学肥料は土壌の微生物に影響を与えます。
化学肥料だけで作物を栽培しようとすると、有機物をエサにする土の中の微生物は生きていけなくなります。
その結果、土は弱り硬くなり、作物は十分に育ちません。
無農薬を実践しながら化学肥料だけで作物を育てるというのは不自然ですね。
そこで、無農薬の場合は、肥料は有機肥料のみ、もしくは有機肥料主体で足りない成分は化学肥料で補う方法が一般的です。
無農薬とは何か
九州山地の奥深い集落で、「無農薬」という立札のある畑を見つけました。
畑そのものに無農薬という看板があるのは珍しいことです。
畑の主は、なぜわざわざ畑に看板を立てたのでしょう。
そこに、無農薬をつらぬく難しさがかいま見える気がしました。
無農薬の意味と特徴
無農薬とは栽培法ではなく、農薬を使っていないということを意味する言葉です。
日本では、栽培される作物の約99%が慣行農法で栽培・収穫されています。
慣行農法とは、農薬・化学肥料を使用した一般的な栽培方法です。
農薬を使えば、病害虫を駆除することができ、膨大な草取りの手間ひまも要りません。
それに対して、無農薬は、病害虫の駆除も草取りも農薬に頼らない分、さまざまな工夫と労力が必要です。
しかし、おおやけには「無農薬」と表示して販売することは認められていません。
なぜでしょうか?
農水省は、平成19年に「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」を改正しました。
生産者が独自に表示していた栽培法に、一定の基準を設けたのです。
「無農薬」とあっても、残留農薬の有無は不明であること、「減農薬」の定義があいまいで分かりにくいことなど、消費者からの指摘を重視した改正でした。
このガイドラインでは、無農薬米も減農薬米も特別栽培米に一本化されました。
その際、「無農薬」は「農薬:栽培期間中不使用」という表示になり、「減農薬」にはさらに細かな表示が求められるようになったのです。
(※本サイトでは、農薬を全く使用していないという意味で、あえて認知度の高い「無農薬」という表記を用いています。)
無農薬のメリット
残念ながら無農薬は主流ではありません。
しかし、無農薬のメリットは大きいです。
1 無農薬は生産者にも消費者にも無害
特に毒性の強い農薬を散布するときは、防護服・マスク・メガネが必要です。
毒性が弱くても、噴霧した農薬を日常的に吸い込むと健康を害するおそれがあります。
また、消費者にはどのような農薬をどれくらい使った作物なのか、わかりません。
知らず知らずのうちに許容範囲を超える農薬を体に取り込むかもしれないのです。
無農薬であれば、生産者にも消費者にもそんな心配は無用になりますね。
2 無農薬は環境を守る
毒性のある農薬は、人体に影響を及ぼすだけでなく、環境も汚染します。
長年、農薬を散布されてきた土地の土壌・水質は生態系にもダメージを与えるでしょう。
たとえば、水溶性のネオニコチノイド系殺虫剤は、水田から流出して、河川や湖沼の環境に影響をおよぼす可能性が指摘されています。
3 無農薬は作物本来の味
無農薬の作物は、その作物本来の味がしますね。
無農薬の米ではさすがにわかりにくいかもしれませんが、果物や野菜は明らかに味が違います。
熊本の直売所に大人気の無農薬トマトが出ることがあります。
またたく間に売り切れてしまう、トマトの味のするトマトです。
直売所の方も「美味しいですよねえ、昔のトマトの味がします。」とおっしゃっていました。
私の小さな家庭菜園の野菜でさえ、それぞれの野菜特有の味を主張しています。
無農薬のデメリット
無農薬はメリットが大きすぎて、消費者にとってはデメリットらしいものが見当たりません。
無農薬栽培の作物は慣行栽培のものより価格が高めですが、その差はほんのわずかです。
一方、生産者の立場になると、無農薬で栽培するデメリットが出てきます。
1 農薬を使わない分、手間がかかる
2 販路が限られる
3 近隣の田畑からの農薬飛散
十分な人手があり、収量も安定してくれば、1の問題は改善されるのですが、家族だけの営農では本当に大変です。
2については、無農薬栽培を支援する体制が整わない限り、自力で販路を開拓するしかありません。
日本各地で無農薬の通販サイトが立ち上げられているのは心強いことですね。
3の問題が一番手ごわいのではないでしょうか。
狭い日本の農地では、無農薬栽培をしようとしても、隣り合わせの田畑が慣行栽培であれば、農薬の飛散はまぬかれません。
ドローンによる農薬散布の影響もあるでしょう。
九州山地の集落で見た「無農薬」の看板は、畑の主の決意表明であり、デモンストレーションだったのかもしれません。
有機栽培とは何か
有機栽培は、国によって明確に定義されている栽培法です。
無農薬がわりとあいまいな言葉であるのに対して、有機栽培には、こと細かなルールがあります。
有機栽培の意味
農林水産省によれば、有機栽培(有機農業)の定義は以下のとおりです。
1.化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない 2.遺伝子組換え技術を利用しない 3.農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する農業生産の方法を用いて行われる農業です。 |
有機栽培では、有機肥料を使って土づくりをします。
有機肥料(有機質肥料)とは、油粕・米ぬかなどの植物性有機物、また鶏糞・魚粉・骨粉などの動物性有機物を使って作られている肥料です。
「有機栽培」「オーガニック」と表示するには、JASの認定が必要です。
有機JASの認定を受けるには、いくつかの厳しい基準があります。
取得には費用が掛かり、認定後も管理記録が義務付けられ、年に一回以上監査が行われます。
生産者に課せられるハードルは極めて高いといわざるを得ません。
農薬・化学肥料は3年間以上使わないのが前提ですが、意外にも指定された農薬なら何回使ってもよく、堆肥や肥料も同じです。
認定にも栽培にもコストがかかるので、価格は高くなります。
有機JASマークがついている作物は、私たちの想像をはるかに超える生産者の努力の賜物といえるでしょう。
有機栽培のメリット
有機栽培のメリットは、無農薬栽培のメリット同様、安全性・環境保全・品質にあります。
完全に無農薬・無肥料ではありませんが、自然の力を活用した栽培法です。
しかも、有機JASマークが付いている作物には、厳しい基準をクリアしたという信頼性が伴います。
店舗の一角に有機コーナーがあれば、品ぞろえを確かめてみる方は多いのではないでしょうか。
有機栽培のデメリット
有機栽培のデメリットを、消費者側そして生産者側の視点で考えてみましょう。
まず、消費者としては、有機肥料の中身が気になります。
肝心かなめの肥料が、植物性であれ動物性であれ、どこでどのように作られたものなのか確かめることができません。
また、有機JASマークの商品は高価格なものが多いことも、デメリットと言えばデメリットでしょうか。
次に、生産者としての有機栽培のデメリットは、慣行栽培と比べて収量は少ないのに、多くの労力・コストがかかるということです。
化学肥料を使わない有機栽培では、作物はゆっくり時間をかけて成長します。
自然な栽培法であるにもかかわらず、一気に大量生産できないため、販売できる商品の数も限られるのが有機栽培のつらいところです。
有機JASマークを取得するとなると、さらにコストはかさんでしまいます。
有機栽培を個人の力だけで行うのは大変なことです。
有機栽培のデメリットを解消するためには、地域共同体の力が必要になります。
日本の有機栽培面積
日本の有機栽培農地は増えています。
有機農業の取組面積は拡大傾向にあり、特に有機JASは10年で6割拡大しました。
有機栽培にとりくむ日本の共同体
農水省の調査によれば、有機農業が地域に広がるのは小規模な町村に多く、若手農家ほど関心が高いことがわかったそうです。
2021年度、耕地面積に占める有機農業の割合が最も高かったのは、高知県馬路村(うまじむら)でした。
耕地面積の81%が有機栽培であれば、村全体で有機の特産品を売り出すことができますね。
実際に、馬路村の全ての農家が化学肥料・化学農薬を使わずにユズを生産し、加工品を全国に販売しているそうです。
九州を代表する有機栽培の町
九州では、循環型農業の先進地として知られる宮崎県綾町(あやちょう)の名が、上記の10位に入っていますね。
ほかにも九州で有名な有機の町といえば、なんといっても山都町(やまとちょう)。
九州のへそに位置する熊本県山都町は、有機JAS認証事業者数が全国最多の「有機農業全国No.1のまち」です。
山都町は熊本県内市町村で3番目に広い町ですので、耕地面積の割合ではランクインしていません。
しかし、昭和40年代(1970年代)から有機農業に取り組んできた、有機農業発祥の地でもあります。
有機農業に対する行政の支援も手厚い町です。
山都町によれば、有機農業での新規就農を目指す移住者が増加しているそうです。
山都町は標高300〜900mの準高冷地ですので、新鮮な高原野菜が手に入ります。
道の駅「そよ風パーク」や、お隣の五ケ瀬にある「特産センターごかせ」は、地元の農産物が並ぶ人気スポットです。
五ヶ瀬町も上の表の22位に入っていますね。
五ヶ瀬町には有機栽培のお茶畑が広がっています。私のお茶は長年、宮崎茶房さんの釜炒り茶です。
五ヶ瀬町は宮崎なのにスキー場のある町。冬は道路が凍結します。
とれたての農産物が並ぶこちらの直売所は、春夏秋がおすすめです。
自然栽培とは何か
自然栽培には、はっきりした定義はありません。
一般的に知られているのは、農薬も化学肥料も有機質肥料も使わずに、自然の力を引き出して作物を育てる栽培法だということです。
究極の農業ですね。
自然栽培の意味
たとえば、自然栽培研究会による自然栽培の定義は、次のようになっています。
「自然栽培研究会『自然栽培』の定義は自然界を教師にして、自然から学び、自然を尊びながら自然に添っていく。そして大自然の法則を田畑に応用するという農法です。」
決してほったらかしという意味ではありません。
むしろ、人工的なものを土に何もいれない分、創意工夫が必要です。
同じような言葉に、「自然農法」「自然農」があります。
「自然農法」の提唱者は福岡正信氏そして岡田茂吉氏、「自然農」の提唱者としては川口由一氏が知られています。
「自然農法」も「自然農」も不耕起(耕さない)という点が自然栽培とは異なります。
自然栽培は最初に誰かが定義して広まっていった言葉ではありませんが、自然栽培の実践者といえば「奇跡のリンゴ」の木村秋則氏が思い浮かびますね。
自然栽培のメリット
究極の栽培法である自然栽培の最大のメリットは3つあります。
1.究極の安全性
2.究極の美味しさ
3.農薬・肥料代が不要
とはいえ、安全性や美味しさはわかりにくいメリットですよね。
私は長い間、全ての作物を自然栽培で育てていらっしゃる方の野菜を買わせていただいています。
この方の野菜はどれも腐りません。
日にちが経つと枯れていくのです。まさに自然に。
腐らないので、実に長い間、食べることができます。
よそで買った自然栽培の野菜も同様です。
学生時代に一人暮らしを始めたとき、買ってきた野菜がベチャベチャに腐ってしまった理由が今ならわかります。
自然栽培のデメリット
消費者の立場からは自然栽培のデメリットは思いつきません。
形が不ぞろいでも問題はありませんし、価格も高くないからです。
手に入りにくいことくらいでしょうか。
一方、生産者にとってのデメリットは二つあります。
1.収穫までの時間が長い
2.自然栽培の認知度が低い
世界情勢の影響を受けて、肥料価格が高騰したことをきっかけに、自然栽培へかじを切った生産者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
根気と勇気のいる自然栽培ですが、次第に認知度が高くなりつつあります。
無農薬・有機栽培・自然栽培の違いを知って買う
無農薬で作る場合、有機栽培や自然栽培、どれもみな生産者の苦労の結晶です。
また、慣行栽培だからと言って農薬をやみくもに使っているわけではありません。
どのように作られたものなのかを知ったうえで、農作物の鮮度・価格を確かめて購入したいものですね。
無農薬 | 有機栽培 | 自然栽培 | |
特徴 | 農法ではなく農薬不使用を指す言葉 | 有機質肥料を使った土づくり | 土に何もいれず自然の力で育てる |
農薬 | ✖ | △(認可されたものにかぎる) | ✖ |
化学肥料 | 自由 | ✖ | ✖ |
有機質肥料 | 自由 | 〇 | ✖ |
メリット | 安全性 環境保全 品質 | 安全性 環境保全 品質 認証制度 | 究極の安全性 究極の美味しさ 経済的 |
デメリット | 手間がかかる 販路が限定 農薬飛散 | 価格が高め 肥料の中身が不明 | 収穫が遅い 認知度が低い |