祖母は米飴(こめあめ)作りの名人でした。
扁桃腺を腫らしたときは、祖母の作った米飴の出番です。
トロリと流れる米飴をお箸の先に巻いて、お茶と一緒にいただきます。
米飴は、昭和の子どもにとって万能トローチであり、病気のときの栄養食でもありました。
今はもう作る人もほとんどいなくなった伝統の米飴。
鹿児島の米どころ伊佐で、ホンモノの米飴、しかも無農薬・無化学肥料のもち米で作った米飴を見つけました。
米飴の作り方・効能とあわせてご紹介します。
米飴とは
米飴は水飴の一つです。
水飴は人の手で作られた日本最古の甘味料といわれています。
飴と神武天皇
飴の登場は「日本書紀」にさかのぼります。
「われ今まさに八十平瓮(やそのひらか)をもちて、水無しにして飴(たがね)を造らむ」
神武天皇が決戦を前にして述べたといわれる言葉です。
八十平瓮(=たくさんの平らな皿)を使って、水無しでたがね(=あめ)をつくろうと。
飴づくりには水が必要ですが、水無しで飴を作ることができたなら武力がなくても天下を平定できるという裏の意味がこめられた天皇の宣言です。
水無飴(みずなしあめ)と呼ばれるこの飴こそが水飴、貴重な甘味料でした。
水飴と米飴はどう違う?
水飴は、穀類やイモ類のデンプンを酵素や酸で糖化して作られます。
水飴のうち、米と麦芽を材料とするのが米飴です。
米飴は、米を原料にして麦芽で糖化します。
ここでいう糖化とは、デンプンを加水分解(水溶液中で溶質が水分子と反応して分解)する工程のことです。
この工程で、水に溶けない微粒子のでんぷんを、水に溶ける甘味のあるものに換えます。
麦芽に含まれている糖化酵素(アミラーゼ)のはたらきで糖化が進み、たんぱく質分解酵素の力も手伝って、あの麦芽特有のこはく色・香り・風味が生まれるというわけです。
このような麦芽による製法(麦芽糖化法)は、米飴以外の水飴ではほとんど使われていません。
麦芽糖化法による米飴づくりには手間がかかり、技術も必要だからです。
現在の水飴の多くが、酵素糖化法という精製した酵素を使って作られています。
米飴と違って大量生産できますが、米飴のような香り・風味はありません。
砂糖でいえば、黒糖やキビ糖がコクをのこしているのに対して、精製した白砂糖が栄養を失うのに似ていますね。
[参考文献:「伝統的製法による米飴の調製方法が成分および食嗜好性に及ぼす影響」]
米飴の作り方
米飴の作り方はかんたんなように見えますが、糖化のさせ方・温度調節・灰汁の取り方など長年の経験がものをいいます。
また麦芽からつくるとなるとさらに大変です。市販の麦芽粉末を使うと手軽に作れます。
祖母は麦を作っている親戚に頼んでいました。
<米飴の作り方>
①大麦を発芽させて麦もやしを作り、乾燥させて粉末にする
②もち米をひと晩水に漬けて蒸しあげる
③①の麦芽を混ぜ、お湯を加えてかき混ぜる
④③をこした搾り汁を火にかけて煮詰める
祖母の家には大きな竈があり、大釜を使って米飴づくりをしていました。
③と④の工程が一番手間がかかるところです。
YouTubeにも、昔ながらの米飴づくりの動画がありました。東北のかただと思います。
寒いからでしょう、こたつを使って保温されているのが印象的でした。
米飴の効能
米飴は、お米と麦芽の栄養を両方もっています。
アミノ酸やミネラルがバランスよく含まれているということですね。
しかも漢方では、膠飴(こうい)という生薬(しょうやく)でもあります。
なぜ米飴が喉のイガイガに効くのか?
喉がイガイガするとき、飴をなめると痛みが和らぎますね。
薬効成分が含まれているのど飴でなくても、飴をなめることで唾液の分泌が増え、喉がうるおいます。
米飴の主成分である麦芽糖(マルトース)は、保湿性・粘性が高い糖です。
液状の米飴がのどの粘膜を覆い、保湿してくれます。ウィルスの侵入にも効果的です。
また、砂糖や添加物を一切含まない米飴の優しい甘みは、喉を刺激しません。
米飴をお茶と一緒にゆっくり戴いているうちに、喉のイガイガも落ち着いてきますよ。
米飴は体に悪いの?
「飴 → 砂糖 → 体に悪い」というイメージがあるかもしれません。
空腹時に甘いものを食べると、一気に満腹感をおぼえますよね。
食後の血糖値は、ブドウ糖が小腸から吸収されることで上昇します。
しかし、米飴には一切砂糖は使われていない上に、麦芽糖(マルトース)は、体内でゆっくり と分解・吸収されます。
米飴を食べても血糖値の上昇はゆるやかです。
米飴はむしろ体に良い食べ物だといえます。
米飴と漢方の膠飴(コウイ)
米飴は、漢方の世界では膠飴(コウイ)として知られています。形状は粉末飴です。
膠飴は、消化機能が低下して、食物からの栄養分を十分に吸収できないときに生薬として使われます。
また、麦芽には気分を安定させる作用があるため、漢方でも鬱々とした感情を解きほぐすために用いるそうです。
ウイスキーもビールも麦芽だよと言われれば、なるほど納得しますね。
[参考資料:「日本の土壌と文化へのルーツ① 稲」]
米飴はどこで買える?
昔ながらの米飴を、安心安全な原材料で製造販売しているお店があります。
鹿児島の米どころ、伊佐市(いさ市)にある「食と木」さんです。
伊佐は霧島連山の伏流水が湧きあがる盆地で、伊佐米や焼酎伊佐美で知られています。
米飴の材料は伊佐のもち米、麦芽、水のみ。
麦芽はドイツ産のオーガニック麦芽です。
すべて栽培期間中の農薬・化学肥料は不使用、もちろん無添加。
もち米の無農薬もなかなか見つからないのですが、同じく大麦麦芽も難しいです。
まさかドイツ産とは。
そこまで原材料にこだわって作り上げた米飴です。
「食と木」さんはオンラインショップですので、どうぞ一度ご覧になってみてください。
マクロビオティックで有名な大口食養村の食養番茶もあります。
米飴で喉のイガイガにサヨウナラ
米飴はハチミツ同様、喉のイガイガ対策に常備しておきたい一品です。
原材料は米と麦芽のみという潔さ。
栄養豊富で生薬としての薬効もある米飴は、手作りでき、買うこともできます。
「ん?なんだかイガイガする…。」と思ったら、迷わず米飴とお茶をどうぞ!