止まらない値上げラッシュのなか、肥料や農産物の価格はどのように推移しているのでしょうか。
肥料・飼料の高騰は続くのか?主食の米をはじめ農作物の価格はどうなるのか?
農林水産省・JA全農(全国農業協同組合連合会)の発表をもとにお伝えします。
肥料・飼料の高止まり
農産物価格を考えるとき、肥料・飼料価格に注目する必要があります。
肥料は農産物に与えるもの、飼料は家畜のえさになるものです。
ここでは、肥料に焦点を当てて価格の推移を見ていきましょう。
市場規模は減少傾向から一転
国内の肥料市場規模は、減少傾向が続いていましたが、2021年には拡大に転じました。
下記のデータは、矢野経済研究所さんによるプレスリリース2回分(2020年・2022年)をまとめたものです。
※注1 メーカー出荷金額ベース
※注2 2019年度および2022年度は見込み
矢野経済研究所さんの調査結果によれば、2020年度まで肥料の市場規模は減少で推移しています。
しかし、2021年度の肥料市場規模(メーカー出荷金額ベース)は拡大に転じました。
化学肥料は、原料(りん鉱⽯等)のほとんどを輸⼊に依存しており、国際的な需給動向に価格が左右されます。
また化成肥料の製造コストの約6割は原材料費です。
したがって、2022年度には、化学肥料の製品価格の値上げが本格化しました。
[参考:肥料制度をめぐる事情と課題 農林水産省]
肥料価格高騰対策事業
肥料価格の高騰により、生産者が化学肥料の使用量を減らすのは当然の流れです。
一方、肥料メーカーも困っています。
肥料関連の売上高が増えても、製造コスト・物流費も上昇しているため、収益性は悪化しているそうです。
そこで、JA全農・肥料メーカー・農林水産省・各自治体によるさまざまな取り組みが始まっています。
農林水産省の事業
農林水産省による肥料価格高騰対策事業についてご紹介します。
国が肥料の費用を支援する取り組みです。
〇支援の対象となる肥料…令和4年6月から令和5年5月に購入した肥料
〇支援の内容…化学肥料低減の取組を行った上で、前年度から増加した肥料費について、その7割を支援金として交付
〇申請に必要なもの
①購入価格がわかるもの(注文票など)
②化学肥料低減に向けた取組に2つ以上取り組むこと
申請に必要なものとしてあげられている②「化学肥料低減に向けた取組」は、申請書兼チェックシートの15項目から選ぶようになっています。
自治体も支援
各自治体でも支援の取り組みが行われています。
たとえば、鹿児島県では、国の措置に合わせて肥料コスト上昇分の1.5割を支援する「肥料価格高騰緊急支援事業」を創設しました。
つまり、国の支援分70%に県の支援分15%をあわせて、前年度から増加した肥料費の85%を支援するというものです。
西郷隆盛の遺訓集に「政(まつりごと)の大体は、文を興し、武を振るい、農を励ますの三つにあり」との言葉があるそうです。
西郷どんも喜んでいると思います。
令和5肥料年度秋肥(6~10月)の肥料価格
肥料価格高騰対策事業の支援対象は、令和5年5月までに購入した肥料でした。
では、秋の肥料価格はどうなるのでしょうか。
JA全農は、令和5肥料年度秋肥(6〜10月)の肥料価格を、前期(2022年11月〜23年5月)に比べ最大で4割引き下げると発表しました。
春肥と対比した秋肥の価格
JA全農が、2023年5月26日に発表した肥料価格の推移をご覧ください。
原則として2023年6月から適用されるそうです。
分類 | 品目 | 成 分(%) | 前期比(春肥対比) | |
単肥 | 窒素質 | 尿素(輸入・大粒) | 46 | ▲37% |
尿素(国産・細粒) | 46 | ▲28% | ||
硫安(粉) | 21 | ▲20% | ||
石灰窒素 | 21 | +4% | ||
りん酸質 | 過石 | 17 | ▲7% | |
重焼りん | 35 | ▲5% | ||
加里質 | 塩化加里 | 60 | ▲44% | |
けい酸加里 | 20 | ▲19% | ||
複合肥料 | 高度化成(基準) | 15-15-15 | ▲28% |
秋肥価決定の背景
秋肥の価格が春肥に比べて下がったのはなぜでしょうか。
輸入原料の価格が落ち着いたことが背景にあります。
肥料原料の荷動きが低調になったことや、ロシア品の供給が継続したことから、世界的に価格は下落に転じているそうです。
とはいえ、日本国内の電力・物流費・人件費などの費用は上昇しています。
JA全農によれば、国内の製造諸経費については値上げということで、メーカーと妥結したそうです。
高騰前に比べると、現在の肥料価格がなお歴史的な高水準であることは間違いありません。
農産物価格の推移
では、農産物の価格はどのように推移しているでしょうか。
農林水産省は、農業物価統計調査の結果を公表しています。
農業物価統計調査は5年ごとに基準改定が行われ、それぞれの基準年を100とした指数が作成されています。
直近では、令和6年(2024年)7月の農業物価指数を公表しました。基準年は令和2年です。
農業物価指数は、農産物価格指数・農業生産資材価格指数に分けられています。
農業生産資材とは、肥料・飼料・農業薬剤のことです。
令和6年7月の農業生産資材価格指数(総合価格指数)は、前年同月比で、0.4%上昇しました。
飼料、肥料等が低下したものの、農機具、光熱動力等が上昇したためです。
次に、米をはじめとする農産物の価格を見てみましょう。
農業物価統計調査結果の概要
農産物価格指数の推移は次のとおりです。
〇農産物価格指数(総合価格指数)は109.8で前年同月比は4.4%上昇
〇果実・肉蓄等は上昇
〇鶏卵等は低下
やはり、農産物の価格も総合的には上昇していますね。
米の価格指数推移
米の月別価格指数の推移(直近3年間)を示したグラフです。
主食の米は、上昇したといっても一時期の鶏卵に比べれば、安定しています。
米は日本の食のいしずえです。
米価の安定は食生活の安定ですので、米作りこそが利益を生む仕組みは必須だと思います。
鶏卵の価格指数推移
鶏卵の月別価格指数の推移(直近3年間)です。
近年の鶏卵の異常な値上がりについては周知のとおりですが、こうしてグラフ化したものを見ると改めて驚かされます。
果実の価格指数推移
果実の月別価格指数の推移(直近3年間)です。
鶏卵の後にみるとホッとしますね。
しかし、鶏卵は対前年同月比-29.3%と低下しましたが、野菜は+2.5%、果実は+22.9%と、上昇しています。
肉蓄の価格指数推移
肉蓄の月別価格指数の推移(直近3年間)です。
肉蓄は、対前年同月比+9.1と、わずかながら上昇しています。
今後も農業物価指数に注目
肥料価格の上昇は止まっています。
原料の輸入価格が落ち着いたことで、下落に転じましたが、それでもまだ高止まりです。
農産物価格指数(総合価格指数)は109.8で、前年の同じ月に比べて4.4%上昇しています。
米は対前月比で+0.3%、対前年同月比で+8.4%となり95.2となりました。
このところ、降ってわいたように米不足が話題になっていますが、2020年の価格よりいまだに低い水準にあります。
減反をやめ、米農家が米作りだけで安定した収入を得られる仕組みが必須ですね。
農業物価指数に注目することで、肥料・飼料価格そして農産物価格の動向がわかります。
農業を巡る価格が上がりすぎても下がりすぎても、ひずみが生まれます。
生産者が守られ、消費者が守られ、日本の農業が守られますように。