ごまの需要が増加しています。外食が減り、内食が増えた影響でしょうか。
ゴマリグナンなど、健康に良い機能性成分が豊富に含まれるごまの人気は高まる一方です。
気になる産地はというと、日本は99.9%を輸入に頼っています。自給率0.1%です。
農産物の輸入品となれば、残留農薬を心配される方も多いでしょう。
ごまの残留農薬については厳しい基準が設けられています。基準値を超えるごまは輸入されません。
こちらの記事では、主な海外の産地・残留農薬の厳格な基準について問題点もあわせて解説します。
99.9%を占める輸入ごま
ごまは、高温多照を好む作物です。暑さに強く夏の盛りに成長し、種をまいてから100日ほどで収穫できます。
日照りに強く栄養に富むごまは、かつて日本中で自家用栽培されていました。
戦後、農業の振興とともに換金作物として史上最高の収量を記録した時期もあります。しかし、米価の上昇・大豆の輸入自由化などに伴い、手間がかかる割に収入の少ないごまの生産は激減していきました。
稲作の機械化は進みましたが、ごまは機械化に乗り遅れたまま、マイナーな農作物となりました。農林水産省の統計調査からも外されています。
こうして、特定の産地や自家用栽培の畑で細々と作られてきたごまですが、近年、健康志向の高まりとともに再び脚光を浴びるようになりました。
セサミンなどの機能性成分の研究も進み、需要は拡大しています。
悲しいかな、需要はあるものの国内で供給ができず、99.9%輸入品に頼っているというのが日本のごまの現実です。
世界のごまの産地
ごまの代表的な産地は、高温・乾燥に強い地域です。また、機械に頼らない生産が可能なごまは、途上国の貴重な収入源になっています。
ごまの生産量を国別にみると、ミャンマー・インド・中国以外は、スーダン・タンザニア・ナイジェリア・エチオピア・ブルキナファソといったアフリカ諸国が上位を占めています。
中国はかつて輸出国でしたが、国内需要が増えたため世界最大の輸入国に転じています。
日本の主な輸入国
日本のごまの輸入量は16万トン前後です。
輸入先の産地には、カントリーリスク(政治・経済・社会情勢などの変化に起因するリスク)を抱えている国が多いため、ごまのメーカーや商社は複数の産地を対象にしています。
たとえば、長年生産量1位だったミャンマーでクーデターが起き、エチオピアでは民族紛争が続いているのは懸念材料です。
さらにスーダンでも武力衝突が続いており、2023年5月現在、周辺国に15万人超が避難しています。
スーダンと日本は長年にわたって協力関係にあり、今後の動向が注視されるところです。
ごまの輸入相手国を順番に並べてみます。
国名 | 数量(t) | 累計金額(1000円) | |
1 | ナイジェリア | 58889 | 8139013 |
2 | タンザニア | 17322 | 2468458 |
3 | パラグアイ | 11350 | 2116635 |
4 | モザンビーク | 10120 | 1428699 |
5 | ブルキナファソ | 8749 | 1197257 |
6 | グアテマラ | 8596 | 1542542 |
7 | スーダン | 4654 | 583502 |
8 | パキスタン | 4040 | 577477 |
9 | メキシコ | 3635 | 910734 |
10 | ミャンマー | 3520 | 870727 |
11 | マリ | 3356 | 444567 |
12 | エチオピア | 2553 | 440420 |
13 | ボリビア | 2362 | 556670 |
14 | ソマリア | 2269 | 309490 |
15 | エジプト | 1765 | 344244 |
16 | ニカラグア | 1713 | 294730 |
17 | ニジェール | 1305 | 193091 |
18 | トルコ | 1248 | 370123 |
19 | トーゴ | 491 | 64567 |
20 | ウガンダ | 490 | 66347 |
21 | ホンジュラス | 484 | 104135 |
22 | バングラデシュ | 430 | 54048 |
23 | セネガル | 388 | 58269 |
24 | インドネシア | 374 | 54975 |
25 | 中華人民共和国 | 340 | 102160 |
26 | マラウイ | 298 | 42083 |
27 | ベトナム | 181 | 40194 |
28 | インド | 51 | 17744 |
29 | スリランカ | 2 | 1085 |
輸入ごまの厳格な残留農薬対策
輸入ごまは遥かアフリカ大陸や南米大陸から船で運ばれてきます。トレーサビリティ(食品の移動を把握できること)が難しい食品です。
輸入食品の検査の手順
残留農薬はどのようにして検査されているのでしょうか。
輸入食品については検疫所で書類審査を行い、次のような手順を踏んで検査しています。
・書類審査で違反の可能性がある場合…輸入者に対して輸入のたびに検査を命じ、合格しなげれば輸入は認められない。
・書類検査で輸入がみとめられた場合…計画的に抜き取り検査(モニタリング)を行い、違反が発見された場合、検査率を高めたり検査命令の対象となったりする。
モニタリング検査には時間がかかるため、違反結果が出たときすでに市場に出回っている場合は、自治体により回収・廃棄の措置が取られます。
残留農薬のポジティブリスト制度
残留農薬や食品添加物には、ネガティブリスト制度とポジティブリスト制度という二つの基本的な規制のしかたがあります。
ネガティブリストとは、原則規制(禁止)がない状態で、規制するものだけをリスト化することです。
一方、ポジティブリストは、原則規制された状態で、使用・残留をみとめるものをリスト化します。
日本の残留農薬基準は、かつてはネガティブリスト制度にもとづいていました。つまり、残留基準が設定された農薬についてのみ、基準を超えた食品の販売等を禁止していました。
残留基準が設定されていたのは、250種の農薬と33種の動物用医薬品です。
250種の農薬について、この野菜にはこの農薬はこれぐらいまでしか使えないよという組み合わせが決められていました。
反面、残留基準値が定められていない農薬と農作物の組み合わせについては、販売等の規制を行うことができませんでした。
そこで導入されたのが、平成18年(2006年)5月29日施行のポジティブリスト制度です。
799種の農薬等の残留基準を設定し、基準値を超えた食品の流通を禁止するという制度。
残留基準値が定められていない農薬と食品の組み合わせについては、一律に同じ基準が設けられました。
毎日食べても健康に影響が出ないであろうという基準値(0.01ppm)です。
ポジティブリスト制度の問題点
消費者の立場では、ネガティブリスト制度よりポジティブリスト制度のほうが有難い気がしますが、いくつか問題点をはらんでいます。
農作物全体とごまとに分けて説明しますね。
1 農作物全体の問題は「ドリフト」
散布された農薬(粒子)が、目標物以外に飛散することをドリフトといいます。
狭い農地に多種多様な農作物が隣り合わせに耕作されている日本。常にドリフトの危険と背中合わせです。
問題になるのは、ある作物に対して残留基準値が決められている農薬を使用する際、周辺で栽培されている作物にその農薬の登録がない(一律基準値が適用される)場合です。
基準値の0.01ppmとは、農作物1gに農薬がわずか0.01μg(0.00001 ミリグラム)の濃度。風に乗った農薬がふりかかれば簡単に基準値を超えますね。
まいた覚えのない農薬が隣の畑から飛んできて、わずかな濃度で流通禁止になってしまうという事態を招いてしまいます。
農水省消費・安全局も「ポジティブリスト制度導入に伴う生産現場での問題点とその対応(2006年)」を公開し、ドリフトに関して注意を促しています。
2 ごまの輸入にまつわる問題
輸入ごまもポジティブリスト制度導入当初は、一律基準(0.01ppm)違反が相次ぎました。違反すれば、積み戻しや廃棄処分です。
途上国から海を越えてやってくる、トレーサビリティの難しいごまに対して、この基準値違反は当然といえば当然といえるでしょう。
しかし、さすがは日本の企業。いたずらに違反国を敬遠することをやめて、輸出前の検査や非モニタリング貨物についても自主検査を強化しました。
膨大な手間と費用をかけた自主検査は今も続いています。
輸入ごまは水洗いして精製される
全国胡麻加工組合は、栽培現場での実態について次のように指摘しています。
・農薬=作物をセットで扱っているのはまだ先進国だけ
・多くの途上国では、認可農薬か禁止農薬かの区別だけ
先進国の論理を押し付けていいのかというごま業界の苦悩がかいまみえます。
このように見てきますと、現行のポジティブリスト制度は、輸入ごまに対して厳しすぎるのではないかという気がします。
そもそも、輸入されたごまは国内で水洗いしてきれいに精製されます。硬いごまの殻に農薬が付着していても、水洗いや焙煎の工程で洗い流されたり揮発したりしますね。
原料原産地を公開している
ごま・ごま油の製造販売を手掛ける会社は、ごまの産地を公開し、残留農薬の検査についても言及しています。
各社のHPには、安心安全なごまを輸入するために積極的に産地と交流し、品質の向上を追求している様子が記載されています。
健康増進のためにごまを求める消費者の立場に立って、ごまの安全管理に努めるごま業界の苦労が報われることを願います。
ごまの効能についてはこちらの記事でご紹介しています。
【関連記事:強い抗酸化作用をもつゴマリグナン!ごまの栄養価と生ごまの炒り方】
輸入ごまの残留農薬は心配なし
日本のごまの99.9%を占める輸入ごま。
世界の主な産地はアフリカ大陸などの高温乾燥地域です。
トレーサビリティの難しい輸入ごまですが、厳格なポジティブリスト制度・企業の自主検査・品質管理により残留農薬の心配はありません。
栄養豊富で強力な抗酸化作用をもつごまを食事に取り入れ、備蓄しておきませんか。