手作りの黒にんにくを直売所でもよく見かけます。
見かけはあまりよくありませんが、「無敵の黒」といった雰囲気を漂わせて結構なお値段。
にんにくの健康成分がはっきりわからなくても、にんにくは「効く」というイメージと、食欲をかきたてる香りと風味は確かに無敵ですね。
では、いわゆるにんにくパワーとは何なのか?
にんにくの歴史はとても古いものですが、その効能についてはまだ十分に解明されてはいません。
こんなに有名なのにナゾを秘めているにんにく。にんにくに含まれる成分が複雑で多様な働きをするからかもしれませんね。
まだ研究途上ですが、これまでに明らかになっている事実をもとにご紹介していきます。
九州産「無農薬」にんにく情報もお役立てください。
にんにくは古来から滋養強壮食品?
にんにくは洋の東西を問わず、古代エジプト・ローマ・ギリシャ・中国そして日本でも、一定の効能を期待して用いられてきました。
世界のにんにくの歴史をひも解いてみましょう。
エジプトのにんにく
紀元前の歴史家ヘロドトス「エジプト史」によれば、ピラミッド建設に従事した労働者に大量のにんにく・玉ねぎ・ラデッシュが提供されたそうです。
出所はピラミッドに刻まれていたという碑文です。
ピラミッド建設の報酬については面白い話があります。
エジプト考古学者吉村作治氏いわく、ピラミッド建設の報酬として毎日ビールを飲むことができたそうです。
そのため、一般に言われているような強制労働ではなく、一般市民もビール目当てに喜んで参加したといいます。
うううむ。にんにくとビール、バリバリ働ける気がしますね。
ギザ最大のクフ王のピラミッドは、高さ147メートル(現在は136メートル)・底部の一辺の長さが230メートル・石の数にして約300万個!
クフ王のピラミッドの内部に入ったことがあります。
玄室(といわれている小部屋)に辿り着くまでに細長い梯子を延々と登り続けねばならず、太ももがつって翌日は筋肉痛でした。
あんな巨大な建造物を人力で築き上げるとは、おそるべし!にんにく(とビール)!
ドラキュラとにんにく
ドラキュラはにんにくが苦手な吸血鬼として描かれていますね。
エジプトの労働者を元気づけたであろうにんにくが、吸血鬼ドラキュラを恐れさせるのはなぜでしょうか。
にんにくを魔除けに使う例は世界各地にみられます。
にんにくの強烈なにおいが魔物を打ち負かすお守りとして使われたのでしょう。
しかし、ここで一つ小さな疑問が。
にんにくは生では無臭。切ったり調理したりして初めてにおいの元のアリシンが威力を発揮します。
アリシンは硫化アリルとも呼ばれる硫黄化合物の一種です。イオウの仲間といえば強烈なにおいもなるほど、うなずけます。
魔除けににんにくを使う場合は、一部を少し切って辺りににおいが立つようにして使ったのかもしれませんね(ドラキュラにも)。
仏教とにんにく
滋養強壮によいとされ、魔除けにもなるとひっぱりだこのにんにく。
かつて仏道の世界は、にんにくとは相容れなかったようです。今でも精進料理には使われない食材ですよね。
仏教では、五葷(ごくん)と呼ばれる5種類の野菜を避けます。
忍辱(にんにく)・野蒜(のびる)・韮(にら)・葱(ねぎ)・辣韮(らっきょう)など、刺激の強い香味野菜のことです。
理由は諸説ありますが、その効能やにおいが修行の妨げになるという説は納得できますね。
頂点はにんにく!米国立ガン研究所の疫学調査
1960年代以降、アメリカでは心臓病やガンが増え続けました。
医療費が経済を圧迫しかねない状況を危惧し、予防医療としての食生活改善の取り組みが始まります。
マクガバンレポート
70年代には栄養問題特別委員会が設置され、アメリカ人の食生活と健康上のリスクに関する報告書が公表されました。
リスクの原因はアメリカ人の食生活にあり、薬ではなく食事を変えなければならないと勧告したレポートです。
委員長が上院議員マクガバン氏だったので、通称マクガバンレポートと呼ばれています。
デザイナーフーズ計画
1990年には、アメリカ国立がん研究所『National Cancer Institute(NCI)』が中心となって「デザイナーフーズ計画」(designer foods project)がスタートします。
植物性食品成分(ファイトケミカル)が、ガン予防にどのような機能を果たすのか解明するプロジェクトでした。
このプロジェクトの最大の功績は、「デザイナーフーズピラミッド」の公表でしょう。
「デザイナーフーズピラミッド」についてかんたんに説明しますね。
ガン予防の重要度を指標にして、約40種類の食品を予防効果の高い順番にピラミッド状に並べたものです。
実験室の中ではなく、大規模な疫学調査のデータに基づいているところに大きな価値があります。
デザイナーフーズ・ピラミッド
デザイナーフーズ計画は、話題性の高い5年計画のプロジェクトでしたが、予算不足でとん挫したといわれています。
しかし、このプロジェクトの影響は大きく、アメリカでは野菜の摂取量が増え、大腸がんをはじめとしたがんの減少につながったそうです。
そして、デザイナーフーズ・ピラミッドの頂点に、堂々とにんにくが鎮座しています。
ファイトケミカル
ファイトケミカルとは、植物由来の化学物質のことです。
たんぱく質や炭水化物などの栄養素ではなく、ビタミンでもありません。
植物が自然環境や外敵から身を守るために作り出している物質です。たとえばにおいだったり、色素やアクだったり。
最初耳にしたとき、「fight chemical」だと思い、「うんうん戦っているんだね、植物も。」と一人合点していました。
「fight」ではなく「ファイト(phyto)」、ギリシャ語で「植物」です。フィトケミカルと表記される場合もありますね。
自然界に数千種類存在するといわれていますが、まだよくわかっていません。
抗酸化作用などにより病気を予防する効果が期待されており、近年注目を集めている成分です。
ファイトケミカルの例
よくしられているファイトケミカルを挙げてみますね。
ポリフェノール・カテキン・アントシアニン・イソフラボン・リグナン・クルクミン・タンニン・リコピン・カプサイシン。
いかがでしょうか、なじみがあるけれど、栄養素ではない、ビタミンではない、でも体にいいよねっという認識の成分ばかりですね。
これらがファイトケミカルです。
にんにくのファイトケミカル
にんにくの場合、外敵から身を守るといえば、ドラキュラも逃げ出すあのにおい成分では?
そうです、アリシンです。
にんにくは、調理などによって細胞が壊されるとアリシンがアリイナーゼという酵素と反応し、アリインへと変化します。
アリインとアリシンには強力な抗酸化作用・糖の代謝促進作用・疲労回復成分であるビタミンB1の効果を持続させる作用があるといわれています。
おっ、疲労回復?ビタミンB1?といえば、アリナミン!!!
あのアリナミンは、にんにくのファイトケミカルのアリシンと深い関係があります。
ビタミンB1は疲労回復の効果があるビタミン。しかし、体内に吸収されにくいのが難点。
ところが、にんにくにビタミンB1を分解する働きがあることがわかったのです。
ビタミンB1は、にんにくの成分「アリシン」と結びついて新しい物質に変化することが判明しました。
その物質は通常のビタミンB1と比べて体内への吸収がはるかに優れており、「アリチアミン」と命名されます。
「ビタミンB1誘導体」の発見でした。
アリナミンの成分表示にもちゃんと記載されています。
このように、にんにくのファイトケミカルとして最も有名なのがアリシン。
一方、アリシン以外のイオウ化合物やサポニンなどの薬理効果も明らかになってきています。
歴史上も疫学的にも十分に認められた効能がありながら、なお未知の可能性を秘め、今後の研究成果が期待されるのがにんにくです。
九州産「無農薬」にんにくのご紹介
にんにくの生産状況について、「令和2年産都道府県別の作付面積・10a当たり収量・収穫量及び出荷量」(農林水産省)を見てみましょう。
収穫量の多い順に並べてみました。ダントツ1位はやはり青森県ですね。
九州も大健闘しています。10位以内に、鹿児島・熊本・大分・宮崎の4県。
作付面積ha | 10a当たり収量kg | 収穫量t | 出荷量t | |
青森 | 1,460 | 980 | 14,300 | 10,500 |
香川 | 103 | 819 | 844 | 681 |
北海道 | 147 | 565 | 831 | 668 |
岩手 | 56 | 641 | 359 | 220 |
鹿児島 | 47 | 670 | 315 | 212 |
福島 | 46 | 641 | 295 | 35 |
秋田 | 58 | 470 | 273 | 153 |
熊本 | 37 | 620 | 229 | 172 |
大分 | 49 | 410 | 201 | 158 |
宮崎 | 42 | 455 | 191 | 185 |
徳島 | 17 | 880 | 150 | 115 |
にんにくこそ「無農薬」栽培に最適!
にんにくは外敵から身を守る手段をもっていますよね。
虫よけ対策として他の植物のコンパニオンプランツ(病害虫対策などによい影響をもたらす相性のよい植物同士のこと)にもなるにんにく。
とはいえ栄養たっぷりの植物ですから全く害虫がつかないわけではありませんし、病気をもたらす菌にも襲われるのですが、家庭菜園でも農薬なしで育てることができます。
九州産「無農薬」にんにく
自然栽培や栽培期間中農薬・化学肥料不使用の、いわゆる「無農薬」で栽培されたにんにくを九州からご紹介します。
〇「ひろふみ農園」(熊本県菊池市)
熊本県玉名郡南関町の「特産品センターなんかんいきいき村」で買うことができます。「いきいき村」は新鮮な農産物や南関あげをはじめとする地元の特産品がそろう大型店舗です。
【関連記事:南関あげをご存知ですか?お寿司・カレー・ピザ・味噌汁・これさえあればひと味違います!】
写真のにんにくは「いきいき村」の農産物コーナーで2022年8月に購入したものです。
みずみずしくて柔らかくとても美味しいにんにくです。小さなネットに2個入っています。
〇「たなかふぁーむ」(福岡県久留米市)
こちらのにんにくは、温暖な西日本の栽培に適した「嘉定種」(かていしゅ)です。赤みを帯びた小さめの品種で九州の直売所でよく見かけます。
「たなかふぁーむ」さんのにんにくは、お取り寄せサイトや大手ECサイトから購入できます。売り切れていることが多いので時期を見てお早めに。
〇「宮崎・八重桜会」(宮崎県)
「八重桜会」は、宮崎の自然栽培生産者のグループです。
自然栽培野菜生産者として知られる川越俊作さんを中心に地味豊かな土づくりに取り組んでいらっしゃいます。
こちらのにんにくはもちろん、完ぺきな自然栽培です。川越さんのお写真を拝見しましたが、スタートレックのピカード艦長をほうふつとさせる笑顔の素敵な方です。
オーガニック系の通販サイトで取り扱いがあります。
〇「松尾農園」(福岡県八女市)
最後にご紹介するのは、福岡県の台所八女市の松尾農園さんです。
農薬不使用の安心安全なにんにくづくりに取り組み、生産量も福岡県で一番。
「百姓が地球を救う!」を合言葉に、社会貢献をしている一本筋の通った生産者です。
愛と勇気に満ちたアンパンマンが㏋上を飛んでいるかのようなイメージ。真心あふれる自社サイト「松尾農園グループ」をどうぞご覧ください。
農業の明日に希望がもてます。
にんにくパワーで明日を元気に!
古代から滋養強壮や魔除けとして不思議な力をもつと信じられてきたにんにく。
大規模な疫学調査をもとにしてガン予防に効果的な食品を示したデザイナーフーズ・ピラミッド、その頂点に立つにんにく。
ファイトケミカルの力はまだまだ研究途上。未知の健康効果も期待されるにんにくを毎日の食事に取り入れて、明日を生きる糧にしましょう。
ファイトケミカル豊富な九州産無添加青汁についても別記事でご紹介しています。
【関連記事:野菜不足をおぎなうには?21種類の九州産野菜を無添加青汁で飲むという選択】
九州産の「無農薬」にんにくもどうぞお試しください。
熊本には地元の唐辛子・にんにく・塩だけでつくった唐辛子にんにくという絶品の調味料もあります。
にんにくは向かうところ敵なしですね。
【関連記事:絶品の熊本唐辛子にんにくと平家落人伝説】
[参考:「ニンニクおよびその成分の薬理活性」・「フ ァイ トケ ミカ ル に よ るが ん の 予 防」・「日本人のフィトケミカルの摂取量と健康影響」「熊本大学薬学部薬草園 植物データベース」]