山川漬(やまがわづけ)は、かめつぼで乳酸発酵させて作る漬物です。
塩以外何も加えない正真正銘の無添加なのに風味は豊かで、すぐれた健康機能性も明らかになっています。
山川漬は古来から長期保存できる食品として重宝されてきました。日本の発酵文化から生まれた備蓄に最適な漬物です。
備蓄用食品として三拍子そろった山川漬をご紹介します。
山川漬は塩以外無添加の乳酸発酵食品
山川漬は、鹿児島県指宿市(いぶすき市)山川地区(旧揖宿郡山川町)の特産品です。
山川地区の漬物店では、400年以上前から続く山川漬の伝統製法を受け継いでいます。
山川漬の伝統製法
1 泥のついたままの大根を冬の季節風と天日のもとで、3〜4週間寒干しする
2 干した大根を杵でつきながら洗浄する
3 2日~3日間天日に干す
4 干し大根に塩を塗りながら杵でつく
5 底にスノコを敷いたかめつぼに少量の塩をふりかけながら大根を敷き詰める
6 底にたまる浸出液を定期的に抜き取る
7 密閉して3〜6ヶ月発酵させる
以上が山川漬の伝統的な製造方法です。
山川漬の作り方の特徴は、浸出液を抜き取り、大根を塩水につけない状態で発酵させるところにあります。
かめつぼに敷いたスノコの下にできる15cm〜20cmの空間と、かめつぼの中心に差し込まれたパイプが水抜きの仕掛けです。
空間にたまった浸出液をパイプを通して吸い出し、余分な食塩と水分をとりのぞきます。
一般的な漬物より塩分が少ないのですが、水分も少ないので、発酵中に腐敗する心配はありません。
なお、かめつぼは出荷に合わせて開封するため、熟成が1年にわたることもあり、熟成期間が長いほど香ばしさが増すそうです。
山川漬と壺漬けは違う
山川漬の伝統製法は時間も手間もかかります。
時代と共に南九州の漬物の需要が高まっていくと、かめつぼの中での長期熟成ではなく、タンクで大量に漬け込まれるようになりました。
乳酸菌発酵による熟成ではなく、醤油で味付けした万人受けする味が壺漬けです。もはや壺には漬かってないのですが、呼び名だけ残ったのですね。
山川漬は1本丸ごと売られていますが、山川漬を刻んで味つけした商品もありますので、山川漬と壺漬けは混同されがちです。
山川漬は、塩だけを用いて伝統製法によりかめつぼの中で熟成されたものをいいます。
山川漬に何かを加えた時点で、その商品は本来の山川漬ではなく、「山川漬の壺漬け」ということになるでしょうか。ややこしいですね。
山川漬は400年以上前から保存食
山川漬がいつ、どのようにして作られるようになったのか、はっきりしたことはわかりません。
山川港は天然の良港で、中世から大型船も停泊できる国際貿易港としてにぎわっていたといわれています。
南蛮貿易の中継地でもあり、貿易や漁業に格好の港として栄えてきたのが山川です。
山川漬が、長い船旅の保存食として人気を集めたことは想像できますね。
山川漬は唐漬と呼ばれる
山川漬は「唐漬」とも呼ばれています。
かつて山川港の近くには、唐人町と呼ばれた場所があったそうです。中国大陸と行きかう貿易港であったことがわかりますね。
今でも山川の民家には1メートルほどの高さの大壺が残っているそうです。
中国から輸入された壺が、山川漬を作るのに使われたことから、唐漬の名がついたともいわれています。
島津の軍船に積まれた山川漬
山川漬は軍隊の食料、つまり兵糧(ひょうろう)としても用いられました。
兵糧として知られている味噌玉も山川漬もどちらも発酵食品ですね。長期保存が可能なうえ、風味栄養共に豊かである点も共通しています。
1592年、島津義久の軍船に、山川港周辺の農家が生産した唐漬が兵糧として積み込まれたという記録があるそうです。
鹿児島には同じくかめつぼで発酵・熟成させる黒酢もあります。南国ならではの発酵文化が根付いていたあかしですね。
【関連記事:鹿児島の黒酢はアミノ酸の宝庫!かめつぼの中で何が起きている?】
山川漬の旨味と栄養
山川漬は、歯ごたえがあり、かめが噛むほど味が出る漬物です。
薄く刻んでそのまま食べたり、味を付けたいときは三杯酢に漬けこんだり、好みの味つけにして食べることができます。
調味液の漬物に慣れると、山川漬は淡白な味わいですが、旨味や栄養がたっぷり含まれている栄養価の高い漬物です。
山川漬の内容成分
鹿児島県工業技術センター食品工業部の研究成果によれば、山川漬の内容成分は次のとおりです。
・水分(60~65%)
・塩分(4~6%)
・糖含有量(13~20%)
・有機酸(0.5~0.8$)
・アミノ酸(1.3~1.5%)
塩分は少なく、甘み・酸味・旨味の成分は、一般的なたくあん漬けよりやや高い濃度になっています。
山川漬が塩以外無添加にもかかわらず、濃い味の美味しい漬物である裏付けですね。
さらに、大根の食物繊維が丸ごととれる山川漬は、たいへん優れた保存食と言えます。
山川漬のGABAはギャバ茶と同等
山川漬はGABAが豊富な漬物です。
GABAは天然アミノ酸の一種です。γ-アミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)を略して、GABA(ギャバ)と呼ばれています。
GABAは主に脳や脊髄で「抑制性の神経伝達物質」として働き、興奮をしずめたり、リラックスをもたらしたりする役割をする物質です。
GABA入りチョコレートもありますね。
よく知られているのは発芽玄米ですが、機能性表示食品であるギャバ茶の含有量はダントツです。
ところが、なんと山川漬のGABA含有量は、ギャバ茶に匹敵!
(鹿児島県工業技術センター「伝統食品山川漬の美味しさと健康機能性について」より引用)
その昔、山川港から山川漬を積んで海を渡った人々は、長い船旅の中で山川漬のGABA効果を体感したことでしょう。
山川漬は鹿児島県ふるさと認証食品
山川漬は、鹿児島の伝統食品文化であると評価され、鹿児島県ふるさと認証食品の対象となりました。
4件の製造業者の商品が認定されましたが、その中で山川で長年にわたり漬物業を営み、県内外に知名度の高い2つの漬物店をご紹介します。
〇(有)内薗賢漬物店
・所在地…鹿児島県指宿市山川福元2963
・電話番号…0993(34)0067
・URL…https://www.uchizono-tsukemono.jp/
内薗賢漬物店さんは、山川漬の伝統製法にこだわりぬいてきた老舗です。店主のおすすめは半年熟成した山川漬。
私も店主の心意気に感じ、備蓄しています。
〇(株)中園久太郎商店
・所在地…鹿児島県指宿市山川大山860-2
・電話番号…0993(34)1180
・URL…http://www.tuke-mono.com/
JR日本最南端の駅として観光名所になっているJR指宿枕崎線の西大山駅。
中園久太郎商店さんは、そのすぐ前に会社があり、開聞岳から名をとった「かいもん市場」を開いています。
鹿児島に行ったら必ず立ち寄る場所です。
[参考:伝統食品「山川漬」の美味しさと健康機能性について]
[参考:指宿まるごと博物館]
山川漬と玄米と味噌汁
山川漬は、塩以外無添加の大根を、かめつぼの中で長期熟成して作られた乳酸発酵食品です。
塩分と水分を抑えた独特の製法により、豊かな旨味と健康機能性を生み出しています。
風味・栄養・保存性にすぐれた山川漬は、昔から保存食として重宝されてきました。
山川では二つの漬物店が、鹿児島県のふるさと認証食品山川漬の伝統を守り続けています。
山川漬と玄米と味噌汁、このとりあわせこそが私たちの食の原点かもしれません。おばあちゃんの味を今一度食卓に取り戻したいものです。