好きな麺類は?と聞かれて即座に「そーめん!」と答える人は少ないでしょう。うどん・ラーメン・パスタには、専門店がありますが、ソーメン屋さんはめったにありません。
しかし、「今日のお昼はそうめんね!」は圧倒的に多く、夏休みの主婦の味方そうめん!冷やしても温めてもおいしいそうめん!
目立ちませんが、応用の利く実力派です。
私は、子ども時代には、そうめんといえば揖保乃糸でした。現在は、島原手延べそうめん・神埼・うきはのそうめんが中心です。
保存食として重宝されてきたそうめんを、九州三大麺産地「島原・神埼・うきは」に南関を加えて、九州四大そうめん産地としてご紹介します。
製造法もふくめたそれぞれのそうめんの特徴をくわしくお伝えしますね。
備蓄にそうめんをおすすめする3つの理由
保存食としてそうめんをおすすめする理由は、3つあります。
ライフラインは止まっていない、つまり、そうめんをゆでる水には困らないという前提でお話ししますね。
さて、そうめんをおすすめする理由です。
〈賞味期限が長い〉〈いつまでもおいしい〉〈たくさん買える〉
実体験からご説明しますね。
実は、こちらの記事を書くにあたって、備蓄してあるそうめんを整理しました。そこで、3年以上前に買った「蕎麦麺工房髙尾」さんのそうめんを発見!
乾麺のそうめんの賞味期限は、製造から3年ほど。消費期限ではなく、「賞味期限」です。
そうめんの賞味期限は、各社で製品に応じて記載しています。これといった縛りはありません。いちおう、これくらいの間で食べてねという目安が記されています。
髙尾さんのそうめん、賞味期限は過ぎていました…。
髙尾さんは市町村合併で久留米市に併合された田主丸(たぬしまる)の製麺会社です。合併前は浮羽郡田主丸町でした。
つまり、うきはのそうめん!
ついうっかり、というかいつもうっかり、ローリングストックされず、「今すぐ食べるグループ」に紛れ込んで、髙尾さんのそうめんは眠っていました。
こちらがその名も「筑後川そうめん」です!
まず心配になったのは、ああ、虫にやられていないかなということ。パッケージの手触りが和紙のような紙だったからです。
とにかく一袋だけ開けてみよう!そう思って手で破ろうとしましたが、破れない!むむむ!破れない!いつもカンタンに破れる透明パッケージに慣れている身としては新鮮な驚き。
裏は丈夫なポリフィルムになっていました。虫なんて…入るすき間もはい出る穴もありません。
開けてみて二度びっくり!3年以上眠っていた、寝かされていた「筑後川そうめん」、まるで今できあがったばかりのような美しさ。
粉ももちろんこぼれず、あたたかい白色のきれいなそうめんが、5束きちんと帯を締めて入っていました。
白雪姫状態。
早速茹でて氷水をはって(九州ですので)、つるつるつるつる。
パッケージの裏面に記されている言葉は、控えめすぎます。とってもコシのある、しっかも小麦の味の残った、おいっしいそうめん!(日本語が乱れる美味しさでした)
高級パッケージに、このおいしさと量。お値段もそれなり!と思ったら大間違いで、安すぎます。
以上、そうめんは〈賞味期限が長い〉〈いつまでもおいしい〉〈たくさん買える〉という検証レポートでした。
なお、うきはには名だたる製麺所があり、そうめんはもとよりご当地ラーメンも次々に製造販売しています。どうぞ別記事でご覧ください。
【関連記事:九州三大麺どころ「うきは」の製麺所製造うきはブランドインスタントラーメン続々登場!】
そうめんの製造方法は機械でも手延べでも美味しい!
そうめんの作り方といえば、麺を棒で巧みにあやつって、繰り返し細く延ばしていくシーンを想像しませんか。「手延べ」ですね。
そうめんの製造方法は大きく二つ。手延べと機械製麺です。
主に手作りで製麺した手延べそうめん
人の手によって麺を引き延ばすという工程がなければ、「手延べ」とはよべません。製造工程で、熟成作業を十数回も繰り返すため、製造に時間がかかるのが手延べ。
しかし、「手延べ」といっても、機械を全く使わないそうめんを作っている生産者はほとんどいません。正確には「主に手作りで製麺した手延べ」でしょうか。
「手延べ」では、麺に植物油を塗りながら延ばしていきます。製造に時間がかかる分、麺の表面が乾いてしまうと麺を延ばせなくなるので、食用油が必要になるのですね。
食用油を塗ることで、麺の変質を防いだり歯切れのよい食味を出したりする効果もあるそうです。
主に機械で製麺したそうめん
機械製麺が始まったのは明治時代。佐賀県の真崎照郷という方が発明した製麺機が普及し、圧延式の機械生産が始まったそうです。
機械製麺は、小麦粉に食塩、水を混ぜた生地をローラーで薄くのばして切り、刃で細く切って乾燥させていきます。
佐賀ではこの機械の導入により、食用油を使わなくても麺を延ばせるようになりました。小麦の香りと風味がしっかり残る麺が作れるようになったそうです。
完全に手作りの手延べそうめん
100%の完璧な手延べで作られたそうめんもあります。手間がかかるうえ、独自の技術が必要です。
大量生産はできないので、なかなか市場に出回りません。一切を手作りで行う手延べそうめんを食べる機会はほとんどないといっていいでしょう。
九州そうめん四大産地「島原・神埼・南関・うきは」
麺王国九州のブランドは、うどん&ラーメンだけではありません。全国区のそうめんブランドが名を連ねています。
島原手延べそうめんは全国シェアの約3割
「島原手延べそうめん」は、「揖保乃糸」で有名な播州そうめんに次いで、全国シェアの約3割を占めています。名実ともに全国にその名を知られたブランドです。
しかし、昭和の高度経済成長期には今ほど有名ではありませんでした。すでにブランド化していた「三輪そうめん」の委託を受け、下請け生産を行っていた時代があります。
「島原手延べそうめん」でありながら、「三輪そうめん」として販売されました。九州の西の端に位置し、販路開拓がままならない時代、名を捨てて実を取る道を選んだといえます。
質が高く美味しいそうめんのあかしです。名前こそ出せなかったものの、有名産地の下請けとして生産量が拡大しました。
平成に入り、有名産地のブランドが実は「島原手延べそうめん」であったことが公になります。平成12(2000)年、いわゆる「産地偽装」にあたるとして農水省の指摘を受けました。
以来、独自の販路開拓に力を注ぎ、押しも押されもせぬブランドを確立するに至っています。
私はこのニュースをよく覚えています。ああ、鹿児島のお茶と同じだなと思いました。昔は、鹿児島の荒茶も県外へ出荷されブレンドされて他産地のブランド茶になったものです。
島原のそうめんも鹿児島のお茶も、下請け的な製造主体だったのが、生産者と行政の長年の努力により、全国に知られる存在となりました。
余談ですが、2021年、鹿児島茶は静岡茶を公に抜いて、生産量日本一に。九州ブランドのこういうニュースはとてもうれしいです。
南島原市役所の調査(平成25年)によれば、「島原手延べそうめん」の生産者は311軒に上ります。中心地の有家・西有家はそうめんの町です。
スーパーに行けば、「島原手延べそうめん」が、ずらりと並んでいます。しかも、この品質と美味しさなのに、このお値段でいいのという安さです。
もっともっと評価されて然るべきだと思います。
「12工程と30時間をかけて完成する島原手延べそうめん」を紹介する南島原市公式サイトにPR動画が掲載されています。百聞は一見にしかず、ですね。
「島原手延べそうめん」については、こちらの記事【島原手延べそうめんにはどんな種類の製品があるの?九州産小麦粉使用の商品3選もご紹介します】で詳しくご紹介しています。
神埼そうめんは油を使わない機械製麺
佐賀県の神崎は「機械製麺」発祥の地とされています。食用油を使用せず、小麦粉・塩・水だけで作るそうめんです。
佐賀県は、小麦の生産量が九州内では福岡に次いで2位、全国3位です。地元佐賀県産小麦100%で作った神崎そうめんを生産販売しているメーカーもあります。
スーパーで、これもまたこの価格でいいのか?というお値段で購入することができます。
地粉100%のそうめんが、スーパーに並んでいる光景は、他には北海道ぐらいでは?
神崎そうめんといえば伊之助そうめんといわれるほどの老舗、「伊之助めん」さんにも、佐賀県産小麦100%使用のスープ付きにゅうめんがあります。
下の画像は、「神埼素麺大坪製麺」さんの「地粉そうめん」です。すでに開封済み。
おなかの中へ1束消えた画像です…。
うきはのそうめんは「命のそうめん」
「うきは」は行政区で言うと福岡県うきは市になりますが、それはあくまでもその時々の行政上の区分にすぎません。お隣は福岡県久留米市・朝倉市・八女市・福岡県日田市です。
農産物の産地としての「うきは」は、筑後川中流域一帯を想像するといいでしょう。
こんなに豊かな農作物が!こんなにきれいな水が!こんなにたくさんの果物が!これがうきはを初めて訪ねたときの正直な感想です。
九州を故郷とする私には九州各地に思い出の土地があり、思い入れのある食があります。しかし、これほど多彩で実り豊かな土地を他に知りません。
そんなうきはのそうめんの歴史は江戸時代にさかのぼります。うきはは、筑後川沿岸にありながら、川より土地が高いため水田ができませんでした。
17世紀後半、五人の庄屋さんが身命を賭けて、筑後川に「大石堰」(おおいしぜき)を完成させます。「五庄屋の物語」として語り継がれる難工事・一大事業でした。
筑後川の水が引き込まれた流域では米と麦の二毛作が始まり、用水路の水車小屋で精米・製粉ができるようになりました。こうして生まれたのが、うきはのそうめんです。
大石堰の少し下流にも「山田堰」という有名な堰があります。この堰も、古賀百工(こがひゃっこう)という一人の庄屋さんの偉業によるものです。
山田堰は大小の石を水流に対して斜めに敷き詰めることで、水の勢いを抑えつつ用水路に水を導くという、日本で唯一の構造です。
ペシャワール会の中村哲医師が、山田堰をモデルにアフガニスタンに全長約25キロの灌漑用水路を完成させたことでも知られるようになりました。
五庄屋・古賀百工さん・中村哲さん、時代は変わっても、農業で人の命を救うために自らの人生を捧げた英雄です。武器ではなく農業です。
うきはに代々づつく製麺所の生産者の方々は、先人が築いた筑後川の恵みに感謝し、強い信念をもってそうめんづくりを続けていらっしゃいます。
うきはのそうめんは、命のそうめんです。
南関そうめんは最初から最後まで手作りの別格そうめん
南関は熊本県の北西部にある町。秋は田畑に植えられた彼岸花が美しい農業地帯です。
南関といえば、よく知られた名物が二つあります。ひとつは「南関揚げ」、もうひとつが「南関そうめん」です。
「南関そうめん」は全工程で、一切機械を使わない、完全手作りのそうめんです。生産者さんも限られています。
最後にいただいたのはいつだったでしょうか。記憶にないほどです。めったに口に入りません。
「南関生き生き村」という地元の直売所で買いました。遠方からの購入手段は通販しかないと思います。
もはや食品というより、芸術品です。猿渡製麺所(現「雪の糸素麺 猿渡製麺所」)9代目の井形朝香さんの名人芸をご覧になってください。ほれぼれします。
「南関そうめん」については、こちらの記事【南関そうめんの通販での購入方法は?10軒の生産者ごとにご紹介します】で詳しくご紹介しています。
美味しい九州そうめんを見つけて備蓄しましょう
〈賞味期限が長い〉〈いつまでもおいしい〉〈たくさん買える〉そうめんは備蓄に最適です。
九州には完全手延べそうめんから機械製麺まで美味しいそうめんがそろっています。九州そうめん四大産地「島原・神埼・南関・うきは」の特色あるそうめんを、どうぞご賞味ください。
日本のそうめん文化が、これからも営々と守られていくことを祈りつつ。
[ 参考サイト:伊之助めん :植物油information ]