椿油は油の王様です。
美味しく食べて髪につけて肌にもつけて、健康にも美容にも良い油。
スキンケア商品としてブランド化されていますが、すでに清少納言や紫式部も黒髪のお手入れに柘植のくしと椿油を使っていたことでしょう。
効能豊かで酸化しにくい椿油は、食用油としても長い歴史をもっています。
江戸時代には椿油で揚げた天ぷらが大人気。とはいえ、年貢としても収められる高級油でした。
今も椿油は希少な高級油です。スキンケアに少しだけ使うならともかく椿油で天ぷらなんて!と思いますよね。
料理上手な方もそうでない方も、ぜひ一度だけでも椿油で天ぷらを揚げてみてください。
他の油では味わえない椿油ならではの天ぷらが味わえます。
困るのは二度、三度と食べたくなってしまうことです。
ここぞというときのために(ここぞの意味は自分でもわかりませんが)、九州産の圧搾式一番搾り椿油を備蓄し、ときどき眺めています。
ご紹介しますね、ここぞというときのために。
椿油はヤブツバキの恵み
椿油はヤブツバキ(Camellia japonica)の種子から採取します。
ヤブツバキの学名からも分かるとおり、日本原産のツバキから作るオイルです。
ツバキ科ツバキ属のオイルをカメリアオイルといいますね。
椿油は、他のツバキ属の植物(ユチャ・サザンカなど)から作るカメリアオイルではなく、ヤブツバキの種子だけが原料です。
椿油以外のカメリアオイルを混ぜている場合は、表示してあります。
ヤブツバキとは
日本で椿というと、ヤブツバキのことです。ヤブツバキは、海岸近くの山や雑木林に自生しています。
温暖な九州の海岸沿いや離島は、野生種のヤブツバキの自生地が多い所です。
子どものころ、春になるとヤブツバキの木に登って花の蜜を吸っていました。まるでミツバチですね。
秋にはヤブツバキの実を拾う手伝いをしました。
大人たちは、かなりの数の実を集め、圧搾機のある家へ持っていくのです。
わずかばかりの手間賃で、搾りたての椿油を一升瓶に詰めてもらいます。
おかげで、どの家の台所にも椿油がありました。
おばあちゃんたちは、椿油を小分けして毎日髪の手入れをします。
白髪のないのが自慢だった祖母の髪も、椿油でつやつやしていたものです。
掘りたての芋をもらうと、椿油で揚げたサクサクのいも天がおやつになりました。なんとぜいたくなおやつだったことでしょう。
ヤブツバキの薬効と用途
ヤブツバキは昔から生薬としても重宝されてきました。
熊本大学薬学部の生薬データベースから、ヤブツバキの薬効と用途をご紹介します。
椿油は軟膏基剤,頭髪油などとして用いる.葉は関節痛や寝違えに服用し、毒虫に刺された時は若芽をすり潰して患部に塗る.夜尿症には果実を黒焼きにして飲む.乾燥した花は熱湯を注ぎ、滋養強壮の健康茶として飲む.
(熊本大学薬学部 薬草園 データベース)
生薬としての椿油は、軟膏の基剤・髪の手入れに使われています。
ヤブツバキは、葉も芽も実も花も余すところなく、生薬としての効能と用途があるのですね。やはり特別な植物だとわかります。
椿油の特性
椿油は、椿の種子(含油量は30〜40%)から圧搾法によって採った油です。
椿油の主成分はオレイン酸で、不乾性油(ふかんせいゆ)に分類されます。
オレイン酸
食用油でオレイン酸と聞いてまず思い浮かぶのは、オリーブオイルでしょうか。
オリーブオイルのオレイン酸含有量は食用油の中では特に高く、約70〜80%です。
椿油はといえば、オリーブオイルを超える80〜90%のオレイン酸を含んでいるというのですから驚きですね。
実は和牛の世界でも、このところオレイン酸が注目を集めています。
和牛オリンピックでは、従来のサシだけではなく「脂肪の質」を重視して評価するようになりました。
牛肉のおいしさの目安に、「一価不飽和脂肪酸」の含有量という項目を加えたのです。
「一価不飽和脂肪酸」の代表的なものがオレイン酸。
オレイン酸などの量が多いと、低温でも脂が溶けて口溶けが良くなる上に、和牛独特の香りが際立つといいます。
今日、和牛の世界では、いかにオレイン酸の含有量を上げ、肉質を向上させるか試行錯誤が続いているそうです。
おそるべし、オレイン酸。
椿油は不乾性油で熱に強い
椿油は不乾性油です。
植物油脂は、ヨウ素価によって三種類に分けることができます。
ヨウ素価とは、油脂100 gに付加することのできるヨウ素のグラム数です。
ヨウ素との結びつきやすさで、酸化のしやすさを測ります。
ヨウ素値の数値が高い方が、酸化しやすいという意味です。
種類 | ヨウ素価 ・特徴 | 油脂の例 |
乾性油 | 130以上・空気中で完全に固まる | 亜麻仁油・桐油・ケシ油 |
半乾性油 | 100~130・完全には固まらない | 米油・ごま油・コーン油 |
不乾性油 | 100以下・空気中で固まらない | 椿油・オリーブオイル・落花生油 |
乾性油は、その性質を利用して塗料や防水剤として使われます。
椿油が、食用としてだけではなくスキンケアにも使われる理由の一つは、不乾性油で保湿効果が高いからですね。
また、不乾性油は、蒸発しにくい(気化しにくい)油ですので、耐熱性の高い油ということになります。
つまり、椿油は高温加熱の料理にぴったりの油です。
油のこしが強く(熱に強く)劣化しにくい椿油は揚げ物・炒め物に本領を発揮します。
椿油の天ぷらはからりと揚がってさっくり軽い食感です。しかもなんともいえない香ばしさと甘みが加わります。
広東料理にふんだんに使われる落花生油もそうですが、椿油は旨味のある食用油です。
食用椿油の作り方
食用の椿油の作り方には、二通りあります。
製造所によって細かな違いはあっても、製造法には大差ありません。
一つは昔ながらの圧搾法、もう一つは溶剤抽出法です。
圧搾法
五島列島にある今村椿製油所さんの製造法をご紹介します。
玉締め機を使ってじっくりと椿油を搾る伝統的な圧搾法です。
1 収穫した椿の実をそのまま天日に乾して皮を開かせる
2 黒い実を取り出しさらに乾燥させ未熟な実を取り除く
3 粉砕機にかけて細かく粉砕する
4 粉砕した椿の実を蒸気で蒸し上げる
5 蒸した椿の実を熱いうちに玉締め機(搾油する機械)に詰め込む
6 ゆっくり圧力をかけて搾油する
7 不純物をろ過して取り除く
溶剤抽出法
油を溶かし出す有機溶剤にさらして油を抽出する方法です。
大量生産に向いていますが、圧搾法に比べると、椿油本来の香りや風味はそこなわれます。
食用椿油の使い方
サラリとしてクセがなく熱に強い椿油は、さまざまな料理の味をぐっと引き立ててくれる万能食用油です。
椿油ご飯
椿の島の郷土料理、椿油ご飯はいかがでしょう。
玄海灘に浮かぶ福岡県宗像市地島は、椿の島です。
周囲9.3㎞の小さな島に約6,000 本の椿が自生し、早春には椿祭りが開かれます。
世界遺産でもある宗像の「むなかた観光ガイド」さんのレシピをご紹介しますね。
〇椿油ご飯の材料(米5合の場合)
・ごぼう 60g
・にんじん 60g
・もどししいたけ 30g
・椿油 20cc
・ごま 10g
・調味料(しょうゆ 35cc、薄口しょうゆ 20cc、塩)
椿油ご飯は、これらの具材を炊き込みご飯の要領で米と一緒に炊くだけです。
お肉も魚も一切入っていませんが、旨味とコクのある椿油ご飯が出来上がります。
王道は椿油の天ぷら
食用椿油は、オリーブオイルのようにドレッシングにも炒め物にも使えるうえに、風味を添える油です。
またお菓子作りに食用椿油を使うと、サクサクの食感に仕上げることができます。
しかし、なんといっても食用椿油の王道は天ぷらです。
揚げてみてください。
カラリサクサクのひと味違う天ぷらになりますよ。
九州産圧搾式椿油3選
椿油の生産量は、ごくわずかです。
日本の山から里山、雑木林が消えていき、ヤブツバキが少なくなったせいもあるでしょう。
そもそも、椿油の特性を生かす昔ながらの製造法は、大量生産に向いていません。
特用林産基礎資料によれば、平成30(2018)年の生産量は、全国で45.1キロリットルだったそうです。
主な産地は、東京都(28.4キロリットル)・長崎県(15.5キロリットル)・山口県(1.0キロリットル)、東京都というのは大島です。
もちろん統計には計上されていない椿油もありますので、実際に製造されている数字はわかりません。
日本のヤブツバキだけで作る純椿油が希少なことだけは確かです。
そこで、伝統製法を守り続ける九州の製油所の椿油をご紹介したいと思います。
いずれも一切の添加物・化学薬品を使用せずに搾った純粋の椿油です。
鹿児島県「伊集院製油」の椿油
伊集院製油(いじゅういん製油)さんは、鹿児島県日置市伊集院にある創業76年の製油会社です。
伊集院製油の椿油は、地元日置市・椿の自生地甑島・大隅にいたるまで鹿児島県内で集められた椿の実だけを使っています。
伊集院製油さんのこだわりは、油をろ過する工程で、蒲生和紙(かもう和紙)を使うことです。
蒲生和紙は、三百年以上の歴史をもつ鹿児島の伝統工芸品で、高級手漉き和紙です。
原料のカジノキの繊維がからみ合うことで油をきれいにろ過してくれるため、純度の高い油に仕上がります。
伊集院製油さんでは、この蒲生和紙を30枚重ねた真空ろ過機で椿油をろ過するそうです。
こうして出来上がった極上の一番搾りの椿油が販売されています。価格設定は高めですが、大いに納得の一番搾りです。
フライパンに流し込んだ瞬間のとろりとした油の厚みで、一番搾りであることがわかります。紛れもなく上質な椿油です。
伊集院製油さんの椿油は、直営店・地元鹿児島のスーパーで購入することができます。
通販では、伊集院製油さんのサイトから購入することができます。
〇伊集院製油ホームページ(https://ijuinseiyu.com/)
五島列島「今村椿製油所」の椿油
今村椿製油所さんは、長崎県の五島列島にあります。
昭和八年創業、文字通り椿油ひとすじの製油所です。
黒潮おどる温暖な五島列島は、鹿児島県の甑島・東京都の大島と並ぶヤブツバキの自生地として知られています。
今村椿製油所さんでは、自らも4千本近くのヤブツバキを植え、椿油の原料は五島列島産のヤブツバキの種子だけです。
山の湧き水と薪を使い、昔ながらの「玉締め式」による一番搾りだけの椿油を作っておられます。
ご購入の際は、今村椿製油所さんのサイトをご利用ください。
〇今村椿製油所オンラインショップ(https://www.imamura-tsubaki.jp/index.html)
長崎県「冨永製油」の椿油
冨永製油さんは、長崎県の大村市にあります。
サラリとした軽さの椿油です。炒め物に向いているのではないでしょうか。
価格も手ごろなため、こちらの椿油で「油と小麦だけぜい沢お好み焼き」を作ったりします。
外側パリッと中身はふっくらしっとりのお好み焼きになりますよ。
冨永製油さんの椿油の購入先は各社オンラインショップです。口コミも参考にされるとよいかと思います。
〇楽天市場での購入先〇長崎名産直売店 鈴田峠農園
日本には椿油がある
椿油は、日本原産のヤブツバキの種子から作ります。
オリーブオイルより豊富なオレイン酸を含む椿油は、酸化しにくく、食用にもスキンケアにもひっぱりだこです。
とくに椿油で揚げた天ぷらは、カラリサクサクの料亭の味。
椿油の製造法は、昔ながらの圧搾法と、大量生産に向く溶剤抽出法の二つです。
九州には、化学薬品・添加物に頼らず昔ながらの圧搾法を守る製油所があります。
・鹿児島県「伊集院製油」の椿油
・五島列島「今村椿製油所」の椿油
・長崎県「冨永製油】の椿油
日本の食文化には、まだまだ守るべきものがのこされていると思います。