サンドイッチの生まれ故郷イギリスは今もサンドイッチの国です。
移民の多い国ですので食文化は多様ですが、サンドイッチの地位はゆるぎません。そのイギリスでサンドイッチの具として君臨しているのがキューカンバーです。
私も子どものころ、サンドイッチの具はキュウリ(に決まっているのだ)と思っていました。食パンにマヨネーズをうすく塗ってキュウリをはさんだものがサンドイッチだと。
ときどき、卵や魚肉ソーセージが挟まれることがありましたが、あくまでもそれはイレギュラーでキュウリの代用でした。
昭和の子どもにとって魚肉ソーセージがソーセージで、おやつ代わりでもありましたが、サンドイッチの具にはふさわしくないと思っていました。
大きくなってソーセージの原料は豚であること・サンドイッチの具はキュウリに限らないということ・生ハムやチーズの存在を知るようになります。
それでもサンドイッチの具はキュウリが一番で、マヨネーズ以外にマスタードが加わったのが唯一の変化です。
〇なぜ、キュウリの具はサンドイッチにかぎるのか?
〇イギリス人は本当にキュウリのサンドイッチが好きなのか?
全粒粉の無農薬小麦粉をサンドイッチ用に備蓄しているサンドイッチマニアの私が、同じくサンドイッチ好きのサンドイッチマン(ウーマン)の方に向けて書きました。
サンドイッチの美味しさは具と食パンとの相性
サンドイッチの美味しさの決め手はもちろん、挟むものと挟まれるもの次第ですよね。
では、挟むものが高級食パン、挟まれるものが高級食材であれば「至高のサンドイッチ」(どこかで聞いた…)になるのでしょうか。
実は「備蓄倶楽部」は「美食倶楽部」から着想しました(お世話になりました)。
こちらの記事も、「美味しんぼ」のハンバーガーのエピソードにヒントを得ています。
ハンバーガーの法則はサンドイッチの法則
高級牛肉を具にしたハンバーガーより、安いチェーン店のハンバーガーのほうが美味しい理由は、バンズと具とのバランスにあるという話でした。
具を高級にするのなら、チェーン店のフワフワバンズではダメで、コシのあるしっかりした生地でなければ調和しないというのです。
私はこの教えを「ハンバーガーの法則」と名付けました。
この「ハンバーガーの法則」は、そのまま「サンドイッチの法則」でもあるのです。
コンビニの食パンはふわふわ
コンビニのサンドイッチはおにぎりと並ぶ看板商品です。
パンの世界に共通する「挟むとうまいの法則」(自作)により、およそ挟めるものなら何でも挟んでしまおうという一流の戦略。
代表的な具をあげると、卵・ハム・レタス・キュウリ・ポテトサラダ・シーチキン・カツといった食事系から各種フルーツのデザート系まで勢ぞろいしていますよね。
そして、具に合わせている食パンは薄い12切れサイズ、しかもふわふわ柔らかい生地がメインです。
ハード系のパンより柔らかい食感を好む日本人に合わせた生地は、具とのバランスがとれているといえるでしょう。食パンが薄いので具の味が際立つのも特長です。
サンドイッチの具はキュウリ
サンドイッチ用の食パンとして売られている食パンの厚さは約1センチで耳はありません。
市販されている食パンサンドイッチも、1斤を12等分した12枚切りが多いようです。コンビニと同じ「戦略」ですね。
具もコンビニ同様バラエティに富んでいます。しかし、柔らかなパンにみずみずしく挟まれ、何枚でも飽きずに美味しく食べられる具といえばキュウリです。
イギリス貴族のサンドイッチの具
イギリス人が好むサンドイッチの具はキューカンバー、キュウリです。イギリス人とひとくくりにするのは少し乱暴ですが、イギリスサンドイッチの主役はキュウリなのです。
ビクトリア朝のころ、アフタヌーンティーの習慣が始まったといわれています。
当時、野菜のとれないイギリスではキュウリは高級食材でした。アフタヌーンティーにキュウリのサンドイッチは富の象徴だったそうです。
私もイギリスに行くまでは全く知りませんでした。
初めてイギリスで買ったサンドイッチの具はキュウリでした。
ポンドが強い時代でしたから、マークスでサンドイッチ一つ買うにしても勇気がいりました。
買った場所(高級スーパー)も悪かったのですが、勇気の出しどころも間違ったといえます。
マークスの高級デリカのコーナーに整然と並んだ高級サンドイッチ。その並み居るサンドイッチの中にさん然と輝くキューカンバーサンドが!
おお、イギリス人もキュウリのサンドイッチを食べるのね、キュウリはやっぱりイギリスでも庶民の味方なのねと急に大英帝国を身近に感じた私。
値段もろくに確かめず一番安いに違いないと踏んだキュウリのサンドイッチを買いました。レジに並んで値段に驚愕!
イギリスのキューカンバーは大ぶりですがそれにしてもこの値段はない!円安も関係ない!
初めてのサンドイッチランチで衝撃を受け、それからイギリス人とキュウリのサンドイッチの関係にとても詳しくなりました。
サンドイッチはキュウリが最高
イギリスでキュウリのサンドイッチが好まれるようになったのは、単なるステイタスの象徴だったからではないと思っています。
食パンにマヨネーズ・マスタードをぬって薄切りにしたキュウリをぱたんと挟むだけで味のハーモニーが完成するのです。
キュウリの水分と歯ごたえなしには生まれないおいしさ。単純なのに「サンドイッチの法則」を見事に成立させています。
ロンドン行の長距離バスに乗り込んできたご高齢のプロフェッサーを思い出します。ちょうどお昼時でした。
席に座ってすぐいそいそとハンカチに包んだサンドイッチを取り出し、いとおしむように召し上がっていたのが忘れられません。なんと2つともキュウリでした。
食後、水筒のフタに紅茶を注いでいらしたのですが、その水筒が薄緑色の格子模様だったことを覚えています。キュウリと同じ色。
サンドイッチを包んでいたハンカチはツイードの上着の袖口に押し込み、時々そのハンカチで思い切り鼻を嚙んで、そのハンカチはまた袖口へ。
どこまでもイギリス流のこの作法とランチタイムの習慣を、長年一ミリも変えずに貫いているであろうプロフェッサーに敬意を払いました。
今でもサンドイッチというと思い出すマークスとプロフェッサー。イギリスでもサンドイッチはキュウリなんだとイギリスびいきが高じるきっかけとなりました。
無農薬小麦粉を備蓄してサンドイッチを楽しむ
私にとってサンドイッチは、郷愁の食べ物です。当然、主食ではありませんが、サンドイッチ作りのために無農薬小麦粉を備蓄しています。
【関連記事:備蓄用小麦粉に加えたい「無農薬」・化学肥料不使用の小麦粉】
食生活にはささやかな楽しみが必要だからです。生のキュウリは備蓄できませんので、家庭菜園で無農薬キュウリが作れないものか試行錯誤しています。
柔らかいサンドイッチ食パンに、あっさりとしてみずみずしく歯ごたえのあるキュウリは相性が良い具材です。
マヨネーズとマスタードだけで何枚でも飽きずに美味しく食べることができます。
野菜の豊富な日本では昔からぬか漬けの具だったキュウリが、海を渡った大英帝国では高級食材でした。
その伝統が今でも受け継がれ、キュウリサンドイッチがイギリスの定番サンドであることに、昭和の子どもは不思議な親近感を持ち続けています。
読んでくださっているサンドイッチマン(ウーマン)の方、世の中が落ち着いたらどうぞイギリスへお出かけになってください。
そしてキュウリのサンドイッチをつつましく食べているプロフェッサーをお探しください。