日本の小麦粉の9割が輸入小麦から作られています。日本では、小麦は政府が一括して買い付けしている特別な輸入品です。
小麦粉は加工食品としての用途が幅広く、値上がりすれば生活に大きな打撃を与える主要穀物です。日本は小麦の輸入国として世界上位5か国に数えられています。
値上げラッシュが続く中、日本政府は2022年10月の見直しを行わず、価格を据え置いていました。
ところが2023年3月には、4月以降の輸入小麦の売り渡し価格は5.8%値上げされています。
そして、2023年10月以降、輸入小麦売り渡し価格は11%余引き下げられました。実に3年ぶりの引き下げです。
さらに2024年4月期(令和6年4月以降)の輸入小麦の政府売渡価格は、0.6%の引下げが発表されました。これで2期連続の引き下げです。
小麦の価格が決まるしくみと価格の推移を知ることで、世界情勢と食卓のつながりが見えてきます。
経済の話はちょっとむずかしく感じますが、大まかなしくみをお伝えできればと思います。
・日本では小麦の価格を、いつどのように決めているのか?
・小麦粉・加工食品の価格はどのように推移しているのか?
農林水産省の資料をもとに解説しますね。
日本の小麦価格の決め方とタイミング
日本の小麦価格は、過去半年間に日本政府が買い付けた価格の平均で決まります。価格の改定は年に2回です。
日本政府は、外国から買い付けた小麦を日本国内のメーカーに売り渡し、メーカーは小麦粉を作りあるいは加工して商品化します。
農林水産省の資料がたいへんわかりやすいのでご覧ください。
日本が輸入している外国産小麦(主要5銘柄)は次のとおりです。
外国産小麦の銘柄 | カナダ産ウェスタン・レッド・スプリング | アメリカ産ダーク・ノーザン・スプリング | アメリカ産ハード・レッド・ウィンター | オーストラリア産スタンダ-ド・ホワイト | アメリカ産ウェスタン・ホワイト |
輸入数量482万トン | 141万トン | 90万トン | 85万トン | 72万トン | 67万トン |
注1:輸入数量及び国内産小麦流通量は過去5年(H29〜R3年度)の平均数量
注2:輸入数量は5銘柄以外の銘柄(デュラム小麦等)28万トンを含む
小麦価格は買い付け価格の平均で決める
輸入小麦の政府売渡価格は、輸入価格(過去の一定期間における輸入価格の平均値)に、マークアップを上乗せした価格です。
マークアップとは、「国家貿易等の麦の制度を運営するために必要となる保管料等の政府管理経費及び国内産麦等の生産を振興するために必要となる経費(品目横断的経営安定対策に要する経費)に充当されるもの」です。
呪文のようですね。かんたんにいうと、国産小麦の助成金に充てられるお金です。
輸入価格には、大型船で輸入する際の港湾諸経費も含まれています。
2023年(令和5年)3月の政府発表によれば、4月以降の売渡価格は5.8%値上がりし、過去最高の1トン当たり7万6750円になりました。
2007年〜2008年以来ですね。あの時も小麦を含め世界中の食料価格が劇的に上昇しました。
小麦価格に影響する相場と為替
輸入小麦の価格に影響を与えるのが相場と為替です。
まず、相場です。小麦はシカゴ相場の影響を受けます。
シカゴ相場とは、アメリカで最も取引量の多い商品取引所で形成される農産物の取引価格のことです。
穀物では、シカゴ相場のとうもろこし・大豆・小麦が国際的な指標になっています。
また、小麦価格には為替の変動も大きく影響します。円高になれば輸入価格は安くなりますし、円安になれば輸入価格は高くなります。
価格改定は年2回
日本政府がおこなう小麦価格の改定は年に2回です。4月と10月に過去6か月の買い付け価格の平均をもとに売渡価格が見直されます。
なぜ、もっとひんぱんに価格を見直さないのか?なぜ半年の平均なのか?という疑問がわきますね。
国際相場は常に変動しますので、短期間に急激な値上がりと値下がりがあった場合、極端な影響を受けないようにするためだそうです。
なお、日本政府の売渡価格がメーカーの価格に反映されるのは更にあとになります。4月期なら6月・7月、10月期なら12月・1月ですね。
これは国家貿易制度に基づいて、製粉会社は2.3ヶ月分の小麦を備蓄することになっているからです。小麦は大事な主要食糧、万が一の時に備えておいてねというきまりです。
小麦の売渡価格が改定されても、2.3ヶ月分の小麦粉は改定前の値段で販売されますので、タイムラグが生まれます。
小麦の価格は上がったのに小麦粉の値段がすぐに上がらないのは、製粉会社が迷っているわけではないのですね。
このしくみを知らないときは、製粉会社は、なんて優しいんだと思っていました。
日本の小麦粉・加工食品価格の推移
日本政府の売渡価格が前回の改定より高くなれば、製粉会社・醸造会社・加工品会社などのメーカーは当然、小売価格を高く設定するでしょう。
では売渡価格が安くなれば、小売価格も安くなるのでしょうか。
小麦粉については確かに律儀に価格設定がされていますが、世の中にあふれている小麦粉を使った加工食品については、どうでしょうか。
実数を調べたわけではありませんが、例えばお菓子類の値上がりはひんぱんにあっても値下がりはあまり聞きませんよね。
あまりというかほとんどというかまったくというか、いったん上げたものは下げにくいのでしょうか。
小麦粉価格の推移
実際に小麦粉価格の推移を見てみましょう。
2021年11月〜2022年11月までの東京都区部小売価格(小麦粉1袋1㎏当たり)の推移です。
21年11月 | 21年12月 | 22年1月 | 22年2月 | 22年3月 | 22年4月 | 22年5月 |
283円 | 276円 | 278円 | 294円 | 304円 | 299円 | 305円 |
22年6月 | 22年7月 | 22年8月 | 22年9月 | 22年10月 | 22年11月 | 22年12月 |
307円 | 313円 | 317円 | 327円 | 335円 | 325円 | 未定 |
大手製粉会社の日清製粉さんも2022年6月20日納品分から価格改定の告知をされ、その後値上げに踏み切りました。
加工食品価格の推移
小麦粉を使用した加工食品の価格も、のきなみ高値で推移しています。エネルギー価格・人件費・その他の材料費なども関係しているでしょう。
参考までに、いくつかの加工品で2021年11月と2022年11月の価格を比較してみましょう。東京都区部の小売価格です。
品目 | 食パン | カップ麺 | ケーキ | ビスケット | うどん (外食) | ピザ (配達) |
量 | 1㎏ | 1個78g | 1個 | 100g | 1杯 | 1枚 |
21年11月 | 435円 | 163円 | 466円 | 155円 | 604円 | 2,056円 |
22年11月 | 500円 | 182円 | 496円 | 164円 | 732円 | 2,145円 |
2022年~2024年4月期の小麦売渡価格の推移
小麦価格に連動して小麦粉も上がり、加工食品も上がり、備蓄しなければならないとわかっていてもこの高値。
2022年から2024年にかけての輸入小麦売渡価格の推移を追ってみます。
2022年4月期の輸入小麦売渡価格
(農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の推移」より)
2022年(令和4年)4月期の政府売渡価格は、72,530円/トン、令和3年10月期と比べて17.3%の引上げになっています。
農林水産省によれば、2022年の価格引き上げの理由は次の3点です。
①2021年夏の高温・乾燥による米国・カナダ産小麦の不作の影響が大きく、9月以降も小麦の国際価格が高水準で推移したこと。
②米国・カナダ・豪州の日本向け産地における品質低下等により、日本が求める高品質小麦の調達価格帯が上昇したこと。
③ロシアの輸出規制・ウクライナ情勢等の供給懸念も、小麦の国際価格の上昇につながったこと。
その後、現在に至るまで世界情勢の不安定さは払しょくされていません。
2022年10月期の輸入小麦売渡価格
日本政府は、2022年10月の改定に当たり、次のような決定をしました。
・2022年(令和4年)4月期の政府売渡価格を適用する(実質、据え置く)
・2023年(令和5年)4月以降については、令和4年3月以降の1年間の買付価格を元に算定
農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格の緊急措置について」の添付資料から、据え置きの理由がわかります。
①ウクライナ情勢を受け、3月以降、小麦の買付価格は急騰したが、6月以降は下落し、おおむねウクライナ侵攻前の水準にもどったこと
②小麦の買付価格の急激な変動の影響を緩和するため、緊急措置として、通常6か月間の算定期間を1年間に延長すること
2023年4月期の輸入小麦売渡価格
2023年3月、日本政府は4月以降の売渡価格の値上げを発表しました。
直近1年間の買い付け価格で算定した場合、1トン当たりの売渡価格は8万2060円、値上げ幅は13.1%にのぼるそうです。
しかし、このような大幅値上げは国民生活に深刻な影響をあたえます。
そこで、ウクライナ侵攻などによる価格高騰の影響が大きかった期間を除き、直近半年間で算定することによって値上げ幅を抑えました。
それでも、パンや麺類など製品価格への波及は避けられません。
売渡価格の上昇分が小売価格に反映される6月以降、各メーカーの小麦製品の更なる値上げが行われました。
2023年10月期の輸入小麦売渡価格
2023年10月、3年ぶりの価格引き下げが発表され、ひとまずウクライナ侵攻前の水準に戻りつつあります。
10月以降、輸入小麦の売渡価格は、1トン当たり6万8240円になります。
前の半年間と比べ11.1%引き下げられました。
農林水産省は、引き下げにつながった国際価格の動向について次のように述べています。
〇 小麦の国際価格は、令和4年8月下旬以降、ウクライナ情勢の緊迫化により上昇したが、11月以降は、穀物合意の期間延長等により下落。
〇 令和5年2月以降は、米国の主要小麦産地での降雨や天候改善等により下落。その後は、ウクライナ情勢を踏まえて不安定ではあるものの、おおむねウクライナ情勢の緊迫化前を下回る水準で推移。
2024年4月期の輸入小麦売渡価格
2024年4月は去年10月に続き、2期連続の引き下げとなりました。
1トン当たり6万7810円です。
農水省の分析は、2023年10月期と変わりありません。
輸入小麦の売り渡し価格については、ひとまず落ち着きを取り戻したといえます。
しかし、世界情勢は予断を許しません。今しばらくの猶予があるうちに、国産小麦の量産化が望まれるところです。
小麦価格の推移を見ながら備蓄を
日本政府は、外国から買い付けた小麦を日本国内のメーカーに売り渡し、メーカーは小麦粉や加工品を作ります。
小麦の売渡価格は、過去半年間に日本政府が外国から買い付けた価格の平均で決まります。
価格の改定は年に2回、4月と10月です。
小麦粉の価格は小麦価格に連動して推移します。しかし、3か月ほどのタイムラグがあることを覚えておきたいですね。
小麦価格が上がった場合は、市場価格に反映されないうちにより安い価格で購入しておきたいものです。
世界情勢と政治と台所は直結しています。
今こそ国産小麦ですね。
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