はだか麦は大麦の一種です。
大麦・はだか麦が日本へ伝来したのは小麦より早く、奈良時代には日本各地で栽培されていたそうです。
食糧事情が厳しかった戦中・戦後は、麦飯や麦焦がし(はったい粉)として日本人の食生活を支えました。
そして近年、大麦に大量に含まれるβ―グルカンの機能性が明らかになり、はだか麦ならではの加工のしやすさとあいまって注目を集めています。
日本に再び大麦・はだか麦の時代が来ました。
大麦とはだか麦の違い・効能・食べ方・用途について詳しくお伝えします。
大麦の種類とはだか麦
大麦は小麦同様イネ科の植物です。
外皮のはがれやすさ・穂の形・アミロースの含有量によって、それぞれ分類されています。
まず、大麦の特性として、麦の実と皮がぴったりくっついてはがれにくい「皮麦」と、はがれやすい「はだか麦」とがあります。
また、大麦を実のなる穂の形で分けたものが、「二条種(にじょうしゅ」と「六条種(ろくじょうしゅ」です。
さらに、大麦の種子に含まれるアミロースの割合により、「うるち種」と「もち種」に分けられています。
ややこしいので、大麦の種類をまとめて表にしますね。
大麦 | 皮麦 | 二条大麦 | うるち性 |
もち性 | |||
六条大麦 | うるち性 | ||
もち性 | |||
はだか麦 | 二条大麦 (少ない) | うるち性 | |
もち性 | |||
六条大麦 | うるち性 | ||
もち性 |
日本で栽培されているはだか麦は、ほとんど六条大麦です。
大麦・はだか麦と並べてよぶとき、大麦は皮麦を指すことになりますね。
皮麦とはだか麦
大麦を外皮のはがれやすさで分けると、皮麦とはだか麦の2種類です。
はだか麦は、皮麦から生まれた変種といわれています。
脱穀すると、実をおおっている外皮(お米でいうと籾の部分)が簡単にとれてしまうことから、はだか麦と呼ばれるようになったそうです。
はだか麦は少量なら手で揉んで脱穀できるほど、容易に皮がはがれます。
皮麦の脱穀には、精麦機(麦の皮を除去する専用の機械)が必須です。
二条大麦・六条大麦の違いと食べ方
大麦を穂の形で分けると、二条大麦と六条大麦の2種類です。
大麦の穂は6列あります。
六条大麦は6列全てに実がつきますが、二条大麦は2列しか結実しません。
実の数の多い六条大麦は粒が小さいため「小粒(しょうりゅう)大麦」とも呼ばれています。
一方、実の数の少ない二条大麦は粒が大きいため、別名「大粒(だいりゅう)大麦」です。
主な用途は、二条大麦がビール・麦焼酎、六条大麦が麦茶・麦ご飯。
東 アジアの在来の大麦はすべて六条種です。日本のビール用二条大麦は、明治初年に初めて欧州から輸入されました。
愛媛県の公式サイトに「えひめのはだか麦レシピ」というページがあります。
見ているだけで食欲がわくメニューがずらり。さすがは日本一の産地愛媛県です。
はだか麦の食べ方の参考になります。
うるち性ともち性
大麦にも、米と同じように、粘りが少ないうるち性と粘りが強いもち性があります。
もち性の大麦が、いわゆるもち麦です。
大麦の中でもとくに食物繊維を豊富に含んでいます。モチモチした食感も特徴的です。
もち性大麦は需要に対して国内生産量が少ないため、大部分が外国産でまかなわれています。
4麦という分類と大麦・はだか麦の産地
日本では、生産量の多い4つの麦を4麦と呼んで独自に分類し、調査統計をとっています。
4麦とは、小麦・二条大麦・六条大麦及びはだか麦です。
農林水産省の調査統計によれば、令和4年度(2022年度)の二条大麦・六条大麦・はだか麦の都道府県別の収穫量・割合は次の円グラフのようになります。
これらは全て子実用(しじつ用)です。子実用は、主に食用を目的にしています。
まず、二条大麦の産地を収量の多い順に並べてみましょう。
1 佐賀
2 栃木
3 福岡
4 熊本
5 岡山
福岡県のビール大麦(二条大麦)はすべてキリンビールの契約栽培です。
佐賀にも多くの圃場(ほじょう)がありますので、この数字は納得がいきます。
次に六条大麦の産地のランキングです。
1 福井
2 富山
3 石川
4 滋賀
5 宮城
六条大麦の産地は、北陸・北関東・東北地方がほとんどですね。
さて、はだか麦はどうでしょうか。
1 愛媛
2 大分
3 香川
4 福岡
5 佐賀
四国と九州が占めていますね。
現在、日本で栽培されているはだか麦の品種は、寒冷地や積雪地域での栽培には向かないそうです。
子実用に対して飼料用の大麦もあります。
飼料用とは、青刈り用(子実の生産以前に刈り取られるもの)のうち、家畜の飼料となるものをいいます。
飼料用の大麦は輸入品です。
加工された大麦製品のタイプ
大麦は製品化する際に、さまざまなタイプに加工されています。
代表的な加工タイプとその特徴を見てみましょう。
〇丸麦(まるむぎ)…外皮を取り除き、精白した丸い大麦。ぷちぷちの食感。
〇押し麦…丸麦を粒の真ん中にある黒い線(黒条線)を残したまま蒸して押しつぶしたも の。麦とろご飯でおなじみのさらりとした食感。
〇胚芽押し麦(はいがおしむぎ)…ビタミンEや不飽和脂肪酸が多い胚芽部分を残した押し麦。
〇米粒麦(こめつぶむぎ)…黒条線を除いて米そっくりに加工したもの。白米に混ぜてもよくなじむ。
〇白麦(はくばく)…大麦を黒条線の部分で2つに切り、蒸した後に薄く平らに加工したもの。黒条線が目立たない押し麦ですね。
このように大麦は、食感や調理の目的そして見た目も考えて、さまざまに加工されていることがわかりますね。
大麦・はだか麦の効能
大麦・はだか麦は健康食として世界的に注目されています。
かつてはビタミンB1、そして現在はβ―グルカンがその主役です。
脚気を退治したビタミンB1
明治時代の日本では、ビタミンB1の欠乏によっておこる脚気(かっけ)という病が人々を苦しめていました。
まだビタミンB1が発見されていなかったころで、伝染病と考えられていたそうです。
そのとき、栄養バランスのかたよりに着目した一人の海軍軍医総監が窮地を救いました。
白米中心だった海軍の食事に麦飯を取り入れた結果、脚気は激減し、以後多くの人命が救われることになります。
この医師は慈恵医大の創始者でしたので、慈恵医大の附属病院では昼ご飯に麦飯が出されるそうですよ。
1911年には、やはり日本人研究者によって、米ぬか中に脚気を予防する成分が存在することが明らかになります。
後にビタミンB1と命名される物質です。
大麦には、ビタミンB1以外にも多くのビタミンB群やミネラル類が含まれています。
大麦β―グルカンの機能性
大麦には食物繊維が豊富に含まれています。
同じ穀類の玄米・白米と比較してみましょう。(可食部100g当たり)
食物繊維総量 | 不溶性食物繊維 | 水溶性食物繊維 | |
大麦/米粒麦 | 8.7 | 2.7 | 6.0 |
玄米 | 3.0 | 2.3 | 0.7 |
精白米(うるち米) | 0.5 | 0.5 | 0 |
玄米は栄養価では大麦よりすぐれた完全食であり、白米の美味しさは言わずもがなです。
ただ、食物繊維の総量だけでみますと、大麦の米粒麦には、精白米の約16倍の食物繊維が含まれていることになります。
しかも、大麦には水に溶ける水溶性食物繊維がたいへん豊富です。
大麦に豊富な大麦β-グルカンは水溶性食物繊維のひとつ。
β-グルカンは野菜・果物・キノコ類などにも含まれており、国内外の研究により、さまざまな健康効果が明らかになっています。
日本では、2013年に「公益財団法人日本健康・栄養食品協会」が、大麦由来のβ-グルカンの機能性を認めています。
・「血中コレステロール正常化」
・「食後血糖値の上昇抑制」
・「満腹感の維持」
上記の3点について、 いずれも「機能性について肯定的な根拠がある」と述べています。
[参考:「大麦β-グルカンの機能性について」日本食生活学会誌]
はったい粉の効能
はったい粉(はったいこ)は、栄養満点のおやつです。
大麦・はだか麦を焙煎(ばいせん)し、挽いて粉にしたものです。麦焦がしともいいます。
昔は、石臼で挽いていました。
黄な粉に似ていますが、黄な粉は大豆、はったい粉は大麦・はだか麦です。
香ばしい褐色の粉に砂糖を混ぜてお湯で練ったら、完成です。
黄な粉餅の黄な粉がお湯に溶けてねっとりとなる、あの食感に近いものがあります。
大麦・はだか麦そのものですので、栄養も効能も丸ごととれるはったい粉。
とくに食物繊維が豊富です。はったい粉には、可食部100g当たり水溶性食物繊維 5.2g・不溶性食物繊維 10.3gが含まれています。
機能性に富む食物繊維を手軽にたっぷりとれるおやつがはったい粉です。
β-グルカンを効果的にとるはだか麦の調理法
はだか麦を調理する際、頭に入れておきたいことがあります。
日本一のはだか麦産地愛媛県にある、松前町(まさき町)のはだか麦公式サイトに、愛媛大学 大学院農学研究科 渡部保夫教授によるアドバイスが掲載されていました。
以下、引用させていただきます。
一つ注意が必要なのは、β-グルカンは、分子サイズの大きい高分子β-グルカンとしての摂取が理想的ですが、水を加えて高温加熱するとその分子が壊れて小さくなり、低分子β-グルカンになります。上で述べた効果には、なるべく高分子β-グルカンとして摂取できる調理法を考えると良いと思います。
では、どのような調理法であれば、β-グルカンを効果的にとることができるのでしょうか。
答えは炊き干し法にありそうです。
大麦・はだか麦は茹でる調理法(湯取り法)が主流です。
しかし、押麦のβ-グルカンの損失を少なくし、効率よく美味しく食べるためには炊き干し法が効果的だそうです。
炊き干し法とは、ふだん私たちがやっているお米の炊飯方法のことです。
[参考:「大麦由来β-グルカンを効率的に摂取する調理法の提案」]
はだか麦の用途
ビール用大麦は製造工程上、皮がある方が望ましいとされています。
それに対して、はだか麦は、脱穀すればかんたんに皮を取り除くことができるため、加工に便利な大麦です。
はだか麦の主な用途を挙げますね。
〇はだか麦で麦味噌
〇はだか麦の焼酎
〇はだか麦の麦茶
〇はだか麦のグラノーラ
麦味噌を食べる九州では、味噌用はだか麦の需要は昔からありました。
さらに、大分の麦焼酎が人気を呼び、需要を後押しします。全国的にも麦茶・グラノーラのはだか麦商品が作られるようになっていますね。
大麦・はだか麦は自給?
大麦・はだか麦も実は国内だけでは需要がまかなえていません。
農林水産省のデータを見てみましょう。
かつて、はだか麦だけは100%国産だったのですが、もちはだか麦の輸入が増えました。
健康志向が背景にあるとのことですので、はだか麦の魅力が広まっているのは喜ばしいことです。
国産もち麦の品種育成もすすめられています。早く供給が追い付くといいですね。
大麦・はだか麦は再び食卓を支える
大麦は、外皮のはがれやすさ・穂の形・アミロースの含有量によって分類されています。
実と外皮の結びつきが強固な大麦が皮麦、はがれやすいのがはだか麦です。
穂の形で分けると、6列全てに実がつくのが六条大麦、2列にしかつかないのが二条大麦。
国産のはだか麦といえば、ほぼ六条大麦です。
さらに、大麦には粘りが少ないうるち性と粘りが強いもち性があります。
日本の農産物分類では、麦類は「小麦・二条大麦・六条大麦・はだか麦」の4麦です。
主な用途は、二条大麦がビール・麦焼酎、六条大麦が麦茶・麦ご飯。加工しやすいはだか麦は用途が広がっています。
大麦はビタミンB1やβ-グルカンを豊富に含み、健康効果が認められた食材です。
海外からの輸入に頼らなくていいように国産の品種育成も進んでいます。
米と麦は今も昔も日本の食卓を支える主要穀物です。なかでも価格の安い大麦・はだか麦を備蓄しない手はありません。
大麦・はだか麦を食卓に取り戻し、穀物の自給率を高めていけるといいですね。